志賀幸治

プリマヴェーラ

小室 耕助> (時刻は0時を過ぎて、尚街は賑わっている。歓楽街は酔っ払いや客寄せ、たまにまだ学生らしい顔つきの人もいる。休日の夜ではそう珍しい光景でもなく、人の往来を観察している自分もまた学生だった。そろそろ人間観察をやめ、帰路に着こうかと考えたその時。君の姿を見かけた。第一印象としては、単純に綺麗な人だなという所。美しさというのは良くも悪くも目を惹くもので、人が行き交う中でもその姿は目立っていた。)「……君、こんな時間に出歩いてどうしたんだい?ああ私はナンパとかじゃない、とは言えないか。こんな時間だからね、学生っぽい君が心配なのさ」(なんとなく、その姿を追ってみる事にした。興味を惹かれたというのもあるし、この時間の街中は一人では心配という気持ちもあった。はて、これはナンパみたいだな?と気づいたものの勢いのまま声をかける。表情は笑みを浮かべ警戒させないよう、なんて。逆に警戒させるだろうか?)   (5/9 00:30:38)


志賀 幸治> 
(  零時を過ぎた歓楽街は、 尚も眠らず、雑踏人混み人いきれ、アンダーグラウンドな匂いが立ちこめている。 客寄せに酔っ払い、露出の多い女にそれに話しかける男、 エトセトラ。 赤提灯と下卑た笑い声の響く居酒屋、 チカチカと光る風俗の看板。 路上に転がるアルコールの缶が、蹴られカラカラと音を立てているのが、 広告トラックの音楽に掻き消されている。 それら全てを見下して、 逍遥するそのひと。黒い髪に学生服は同化せず、浮いているといえば聞こえが悪いだろうが、確固たりアイデンティティじみた、 揺るぎなき清廉さを感じさせる。 言葉を掛けると彼はその歩みを留め、声の主の方を見遣る。 警戒心に、 やや声色はくぐもっていただろうが。 ) 「 …… 僕ですか? 塾の帰りなのですが、遅くなってしまって。 御心配ありがとうございます。 でも大丈夫ですよ、 普段のことなので。 ……それと、知り合いの方でしたか。 もしそうならすみません、 人の顔を覚えるのが苦手で。」(柔らかな微笑みは、その距離の縮まりをふらりとかわし、遠ざけているようにすら思う。 定型文じみた、無機質な言葉の並びだ。 うつくしい顔立ちに浮かぶアルカイックな微笑みが、それをより強調しているようにも思える。 繁華街での声掛け、ひいては学生服の青年に、など、不埒な誘いか私服警察と相場が決まっている。 警戒しない訳があるまい。 内心君のような人(ここでいう君のような、とは、繁華街で軽率に他人に声をかけてしまうような、浮ついた人物像である、)を軽蔑している彼だ。 普段ならば会話を終わらせ足早に立ち去ることだけれど、その顔立ちに一抹の既視感を覚え、 それからと、思い出したように疑問符を取り出した。声の後にできた、自然な沈黙。 ふと重なる視線。 君の瞳のくらやみが、 僕のものと重なるようで、 どうしようもなく不安になる、ような、 気が、して、いて。思わず視線を背けるのは、自然な防衛本能と言ったところだろう。)   (5/9 01:13:21)


小室 耕助> 
「そうかそうか、なるほどねぇ。……いや、私の記憶が正しければ君とは初対面だよ。もし知り合いなら君の名を呼んでるだろうからね。ただ、同じ学園の生徒ではあるかな?」(視線を合わせるならば君の心をどことなく見透かすように、或いはただ笑みを浮かべるように目が細めよう。実際のところ、君がこちらを警戒しているのを理解している。君から見た自分が不審者である、という所も。実際君とは知り合いではないが……その服装には覚えがある。恐らく、君は自分と同じ学園の生徒なのだろう。君の不安が少しでも紛れればいいなと思いながら、懐の学生証を見せる)「まぁ話しかけるまで正直気づかなかったよ。心配していたのは本当だけれどね……君が寮暮らしなら帰り道も同じだが、ご一緒して良いかな?」(最初は変なものを引き寄せないかという心配。そして今の君に対する感情は"興味"だ。綺麗だがどことなく人との距離を感じるその雰囲気。そして君の心の揺らぎ……思考をある程度読む知識はあれど具体的なことはわからない。不審者に対するものとはまた異なる、何か不安のようなもの。そして逃げればいいのに知り合いかというのを確認してきたという事は、こちらに何か感じるものがあるのかもしれない。良ければもう少し、話してみたい所だ)   (5/9 01:36:53)

志賀 幸治> 
「 ( 6限目終わりのチャイムが鳴ってから、もうどれ程たったことであろうか。 彼は優等生の見本図が如く、図書室にて授業の復習をしている最中であった。 部屋の中にはざあざあと、ガラス越しに聞こえるの砂嵐宛らの雨音と、ひらりと頁を巡るオノマトペ、ペンと布の擦れる心地良い音が混ざり合い響いている。図書室特有の、無作為に郷愁を誘うあのなつかしく、静けさの香水を一滴ばかり垂らしたみたく匂いが、雨の日は一層強く漂っている。課題範囲であった最後の問題を解き終わった頃、彼は指を組んだままその腕を前にだし、ぐぐと大きく伸びをした。 錆びた身体がポキポキと子気味よく音を立てる。 )「もうこんな時間か、 」( 時計に視線を向ける。短針は五時をやや過ぎた辺りで足踏みしているというのだから驚いた。短い間のようでいて、それより長い程過ぎたような心地がするのも、 雨が窓に打ち付け、ひしひしと時の流れを刻んでいるからに違いない。ふと窓の奥の自分と目が合う。 硝子が幻燈、もしくは鏡みたく反射している。雨雲の奥に浮かぶ自分は随分と辛気臭い顔をしていて、 今日の自主学習に一区切り付けることを決めたのだった。 )(必要でないテキストをロッカーに置いてゆこうと、カウンター席の図書室司書に軽く会釈をし、 教室へと歩みを進める。 いつもと変わらぬように見える廊下は湿度のせいか若干湿っていて、 歩けば上履きのゴムと擦れてきゅうとばかばかしい音がした。雨がもたらすのは愚鈍たり停滞であった。 ここ数時間空の色は変わらず鈍色で、 重苦しく、 肺を犯す息苦しさすらあり、梅雨入りを感じさせる。昔から、雨の日の、その陰気さが何処か好きだった。 、 ぼんやりと歩いていれば図書室から教室までは束の間である。 教科書の背表紙順に並べられた、神経質と生真面目さの伺えるロッカーに教材を戻した。 ふと、 机の中に置き去りにした本のことを思い出す。 大しておもしろい内容でだったわけでもないが、雨の収まるまでの暇潰しにはちょうど良い。 がらりと、比較的新しい建物故に立て付けの良い横開きのドアを開く。 目に飛び込むその場所は、普段とは別の顔を見せていた。 )普段何十人の詰め込まれているその部屋は普段は狭く、閉塞感に動物ケージの中すら思わせるほど窮屈であるのに 、人ひとりおらず、 規則正しく配列された机と椅子だけが凡そを占めている其の空間には、伽藍堂の寂寞と共に、一瞬モラトリアム的、 限定に不在する神聖さすら立ち込めていてる。外も相まって薄暗いのが余計に無駄な抒情を与えていた。 と、描写するのすら、くだらないだろうか。 かれの諦観と侮蔑は、 ぱちりと灯りのスイッチを押すと、チカチカと点滅の後灯る灯り。窓際の後ろから2番目、 自席へと腰掛ける。 鞄を机の横に掛け、ブックカバーの掛けられた文庫本を取り出した。 カチカチと、 時計針の音と息が溶けて、 質量も無くなるほどの静寂が、薄らと世界を包んでいる 。その中に浮かぶ、 清冽な横顔は、 何だか古典主義の絵画めいた、耽美すら感じさせるものだ。 )」   (5/9 20:43:42)


七竈 八六> 
「───────あ゛ァ゛~~~~ッッ!!!!クッソマジかよッッ!!!!???」(それはほんの数十分も経たないうちの出来事である。元来よりニュースを見るような柄じゃないのは見て取れる通り、今日の天気予報だってろくに知らなかった彼は、当然のように傘を家に忘れていた。でも、それでも良かった。『馬鹿は風邪をひかない』とはよく言ったもので、家に帰る道中は多少濡れて帰ったって構わないだろうと。それに、何よりもやや身長差のある友人の傘に入れてもらうのはなんとなしに忍びないからと、雨に降られながら校門を出た矢先だったんだ。) 「ッかしいなァァ~~…………ぜぇーーーってえ鞄に入れたと思ったのに………〝 弁当箱〟、教室に置きっぱだわ…………………」「ごめんなんだけどさ、ちょい 先帰っててくんね???あとからちょっぱやで追い付くからッ!!!」
(彼にとっては傘より重要な『忘れ物』。それを学校から出てほんの少し進んだところで思い出したのである。小雨と言うには零れる雨に、もう随分と打たれてしまった。彼は踵を返したのならば、『明日で良くないか』と提案する友人をよそに 逆再生も宜しく、校内に吸い込まれるように戻っていったことだろう。時間も時間、チャイムはとうの昔に鳴っている。忙しなく下駄箱で靴を履き替えてはキュ、と足音を鳴らし、階段を駆け上がる姿は脱兎の如く。〝 せんせーに見つかりませんように 〟と密やかに願いながら廊下を走って、向かう先は自らの教室である。)「ッ………フゥーーーーー…………………」(……この時ばかりは誰も、いないと思ってた。) 「………ッ…………………あー…もう、最悪……………………」
(事実、電気がついている時点で気づくべきだったのだ。なのに彼は、濡れた髪がくねり、張り付くのが気持ち悪いとかきあげるまで、予想もしていなかったそうじゃないか。その証拠が上記の独り言だ。)「…………………、………あれ。」(張り付くワイシャツを軽く伸ばし、顎から雨が伝う前にぐし、と雑に拭う。それでも間に合わないと言わんばかりに、前髪から、服から、ピト、ピト、と滴る水滴はまるで天気雨のよう。お日様のような瞳の先に映るのは灰色の教室に、水彩画のように滲んだ男子生徒の姿だった。まるで窓枠が額縁のようにさえ思えてくるように、その様子は随分と、『完成』されている。)(────────でも。)(……………嗚呼、あれ。〝 どんな子だっけ〟。)(作者は不明。)(貴方を詳しく知らない。答え合わせを混じえて、驚いた様子できっとその『差し色』は、生きる絵画に言葉を紡ぐ。)「…………………志賀、だよな…………?斜め後ろの席の。」   (5/9 21:12:27)


志賀 幸治> 
(けったいな、埃被りの静寂を下らないと言わんばかりにビリビリと破いたのは、その、眩いくらいの黄色の彼であった。 駆ける足音の喧しさを引き連れその男が扉を潜ると、 彼は出迎えるよう ゆっくりとした動作で活字から思考を洗い、文庫本に栞を挟む。  …… 一瞥、それから、息を飲んだ。 濡れた金色と雨粒が蛍光灯に乱反射している。 そのとき僕は、生まれて初めて迸る閃光、というものをみた、気が、した。 その仄暗い停滞の中、 水溜まりに一滴ばかり入れれば染め上げてしまう、 コピーインクのイエロー。否、それほどまで無機質な物だったろうか。大輪の向日葵のよく似合うその瞳と、夜の暗闇の良く似合う、清廉さを兼ね備えた黒が交錯する 。黒、が、揺らいだ。のも、束の間。───────   少しの沈黙の後、 模範品は薄い唇を開いた。口角の上がり、細められた切れ長の瞳に薄らと涙袋が浮き出ている。 柔らかな微笑みは人当たりが良い。そう、 確かに〝良い〟のだけれど、 敏い人は、それでいてマニュアルめいた、人為的なやさしさを感じるのだろう。君の対峙するその態度は、 先程の解釈のゆとりを残した連火の横顔とは相反するように、 量産品のつまらない響きを取っている。  ) 「 ………… 、うん。 そういえば、 新学期からもういくらか立つけれどさ、あんまり話したことは無かったね。 」 ( 距離感を測るみたく、 手探りの会話の糸を手に取り言葉を編んでゆく。 柔らかく頷けば、 こんなに席も近いのに、と小さく笑って付け足した。 思えば新学期が始まってから、 お互いしっかりと会話をしたのは久し振り、否、初めてかもしれなかった。 交友関係も違えば、趣味も、特技も、何もかもが違う。 住む世界とすら言っていいだろう。今目前にいるのは、対角線に立つような人物だ。で、あるからこそ、興味関心が無いわけでは無い。影は光に光は影に、欠落の穴を求めるのが人の性そのものであり、隣の芝は青く見えるとはよく言ったもので、​─────── 、 ( そうだな。 羨ましいと、思わなかったことは無いんだよ。) 彼のペルソナの根底には、 自由への渇望も眠っていた。 ) 「 七竈くんは​──────…… 忘れ物? ………… 、 随分と大切なものなんだね、 」 ( ちらりと『七竈八六』の席を横目に見れば、 お弁当箱が机のフックに掛けられたままであった。 他愛ない日常会話だ。駆けて戻ってきた其の様子と、先程の独り言が重なり、 それくらいの推理は容易かった。 それから、 普段は意識していなかったのだけれど、斜め前の距離感は、思っていたより随分と近かったみたいだ。  )「これ。 ぜひ使ってよ、 最終下校の辺りには雨も止むみたいでさ、多分僕は使わないと思うから。 」(濡れて風邪など引かれても後味が悪いし、 …… 〝志賀幸治〟という人物は彼のような人に優しくあることを、強いられているような気すらする。 これは誰が定めたわけでも無く、言わば筋書や道理と言ったもので、果ては唯の勘違いや空回りに過ぎないかもしれなかった。人はこれを偽善と言うのだろうが、 そんなことは構わなかった。僕はありのまま、正しい形で〝志賀幸治〟という役を演じればいいのだ。)(彼は今時珍しいブラウンの皮鞄の中から、紺色のハンドタオルを取り出し、 君へと差し出した。 Yの刺繍の入れられた其れは、何処と無く上等さを漂わせている。 (この間にもぽたぽたと、 教室の床に水滴の染みは広がってゆくばかりであった。)   (5/9 22:19:30)


七竈 八六> 
『………… 、うん。 そういえば、 新学期からもういくらか立つけれどさ、あんまり話したことは無かったね。』「…………あ゛ーーーー………………言われて見りゃそうかもなァ…………………………へへッ、じゃあ今日はちょっとラッキィ。」(彼は、貴方の笑みに対し、にひッ、と歯を見せて、人懐っこい笑みを見せた。作品としての『完成』として、限りなく近い貴方の笑顔はそちらがいうように『目敏い人』なら気付くかもしれない。しかし彼はどうだい。『笑いかけてくれた』。例えそれが愛想笑いだあったとしても、目が合いそうしてくれたほんの些細なことだって、彼はほんのりと嬉しく思ってしまうのだ。ゴムと床の擦れる音を鳴らしながら教室の中へと入れば、差し色はより色濃く映る。貴方の席の近く、必然的に歩み寄る形になるんだろう、ほら。天気雨、狐の嫁入り。雲がないのに降り注ぐ雨を引き連れて、1歩、2歩。進む足取りは対角線上斜め下。)(彼は言葉を続けた。)「いやァ、それがさァーーー……………弁当箱忘れちまって。じめっと蒸し暑くなってきたしさァ……………………なるべく放置もしたくないっていうかァァ………………」「………………まあ、でも大事。うん、大事だわ。」(嗚呼、あったあった、なんて。当たり前のことを呟きながら、彼はフックにかかった〝うさぎさんのマーク 〟が入っているお弁当入れを、じー、とチャックを開けてはリュックサックの中に入れた。貴方ならキチンと閉めるのに、彼は入れたことに満足しているのか、チャックは中身をほんの少し覗かせている。 些細なところでも違いが嫌に滲み出て、その違いにさえ貴方は気づいてしまうんだろう。光が強けりゃ色濃く映る影を自覚しながら笑みをたたえているだなんて、きっとこの男は考えちゃいないのに。 リュックサックを雑に背負い肩にかける彼は、〝もう帰ります 〟という雰囲気を醸し出しながら顔を上げ、貴方の方を再びみやりながら1つ。)「ィよーーーしィッッ!!!無事に弁当箱も腐っとこから救出も出来たしィハチロクちゃんはそろそろ────────……」『これ。 ぜひ使ってよ。』 「………………あ?」(そろそろ、……)『最終下校の辺りには雨も止むみたいでさ、多分僕は使わないと思うから。 』』「えっへェ~~~~~????マジィ………………?????」(立ち去る、その前に。気が利く貴方は、沈んだ夜を引っ張り出してきたような、傍から見れば普遍的なタオルを彼に差し出してくれていた。きょとりの目を瞬かせ、ほんのりと驚きの表情を見せていたのも束の間。)「んんーーーーー………………じゃあさァ~~~~~~~~…………」 「 俺ェ、もうちょいココに居るわ。」(彼は、リュックサックを降ろす。)「そしたら志賀とも話せるし、タオルも濡れねェ。そもそも雨がほんとに止むかどうかなんてわかんねえだろォ~~~~????天気予報士のオニーサンもオネーサンも、すっげえ頭はいいンだやろうけどさァ…………やっぱ完璧じゃねェーって。」(『七竈 八六』)(そう記載された席の椅子と床が擦れる音が教室内に響き渡る。背もたれに肘を乗せるように反対側を向いて、貴方の顔がよく見えるように腰掛けた彼は、腕に顎を預け目を細めて貴方にねだるだろう。)「……………だから雨やむまで付き合って。……………ちょっとぐらい良いっしょ。」(貴方の優しさに漬け込むつもりなんて無いと言ったら嘘になる。意地らしく揺れるピアスと、虚勢の象徴とも言えるヤンチャな金髪。笑みを浮かべれば覗く八重歯。早く大人になりたくて、無理やり背伸びしたかのような子供と。大人にならざるを得なかった、秘密を愛するペシミスト。)(友達は、もう帰っちゃった。)   (5/9 23:05:32)


志賀 幸治> 
(穏やかにわらうのは、 光に目を焼かれたような気がして、細めたかったからだ。 眩しく、 君と僕の間にある境界線に溜息をついで、見ないふりを重ねて。 それら全てを低気圧の、靄の掛かる気だるさの所為にして、 はさりと長い睫毛を動かし瞬き。 それから、 映りこんだ君のまるで喜劇役者見たく大振りの仕草を眺めて、 ははと息を漏らして笑う 。 )(『もうちょいココにいるわ』という言葉を聞いて、 その作品の均衡が、刹那、崩れた。文字通りの一瞬で、小さく目を見開いて、それから先程の微笑みに還元された。 )「 ごめんね、逆に引き止めちゃったかな。 」( リュックを下ろす動作を脇目に、 幾分か申し訳無さそうな声色であった。 大した罪悪感というものを持ち合わせている訳でも無いが(マニュアル通りと言えばそうなのだから当然である)、 適切な素振りがこれであるようなだけであった。 僕は学校、或いは社会の中での志賀幸治であるとき、 志賀幸治というテンプレートをなぞるだけで、他に一切の自我のないように思うのである。 一種、 自己同一性の拡散、或いは、その枠が霧散仕掛けている志賀幸治を繋ぎ止めてるのやも知れなかった。然しながら、 解放を望み枠組みから開放されたとして、その自我とやらは何処へいくのだろう。釣り合ない天秤のその先は? 夜と一緒に溶けて消えて、灰にでもなるのだろうか。 ……………… 詰まるところ、君が羨ましいという話だ。 その楽観性も、明るさも、朗らかさも、心地好い。心地好いのに、息が苦しく、遣る瀬無い。)「……………… 僕なんかで良ければ、 幾らでも。 」(心臓の水面に君の好奇心に晒された指先がちょんとふれる。 それは波紋をもたらし、 ひりひりとした、 渇きによく似た、普遍的な『さみしさ』の奥へと入り込む。 繋がっていたいからと長い髪を靡かせるのに、 人との深い関わりを断つのは臆病さゆえだった。 保守的な彼の繭を破るのなら、君のような人なのだろうか。 頷いて、 穏やかな、抒情と解釈の余地を残した微笑みを湛える。 その意地らしく揺れるピアスに、いくつかの羨望を残して。いくつも似ていない、似ていないからこそ、穏やかなイエスを残したんだろう。 知的好奇心は、未知のものへと湧くというのが通説なのだから。 ああ、それから​─────── 天気予報とは裏腹に、 雨はまだ、止む気配を見せなかった。 沈黙の合間に、 雨音が張り込む。やまない雨はないなんて、きっと嘘だ。 止まない雨も、終わらない夜もあればいい、なんて、ばかばかしいかな。 )「明日も、明後日も雨みたいだよ。 梅雨入りなんだって、はやいよね。 」   (5/13 17:50:09)


七竈 八六> 
「ひひ、やったね。志賀ちゃんならそう言うと思ってた。」(怒んなそーだから、なんて勝手な決めつけ。にひぃーっ、と歯を見せ笑う彼を、貴方が甘やかしたんだぞ、と責め立てる輩がここには居ないのが不幸中の幸いか。否、きっと教室にたくさんの人間が居たとしたら、貴方と彼の世界が交差することはなかったんだろう。街に描かれた攻撃的なエアロゾルアートと、美術館に整頓された絵画ではまるでタイプが違うように。趣向も違えば目の色だって。)『明日も、明後日も雨みたいだよ。 梅雨入りなんだって、はやいよね。』 「…ああ、そうか。梅雨入りか。……やだなァ、布団はふかふかなのが好きだし。外で遊びにくくなるだろォ?……あーーでも、濡れんのはァ…………正直嫌いじゃないかも。」(他愛のない会話だった。あなたの見解通り、彼は物事を深く考えない。故に貴方が彼にどう思っているのか。どれだかのないものねだりを数えているのか検討すらつかないのだ。雨も『洗濯物が乾きにくいから』、こんな理由であまり好んでいない口振り。貴方が止まない雨を望むなら、彼は青空に手を伸ばしたいと願うだろうに。)(…──────────でも。)「………………この学校に、雨やませる能力、使える奴もいるんかな。天気、自在に操れちまうの。ガッコーサボりたかったら、すげえ雪とか降らせちゃってさ。夏に。」(彼は、ぽつりぽつりと、最初は小雨のように冗談を零すのみだった。視線の先は、貴方の白い腕に巻かれた革製の腕時計。貴方にも『ついてるんだ』なんて、当たり前のことを考えたのはここだけの話。)「……………あんま皆に言ってねえんだけど、実は俺さァ、〝適性が分からない 〟ンだよね。…………みんな見たく腕時計付けてんだけどさ。………なんも見えねえし、なんも能力が出ねえの。はは、ウケるっしょ。……オモチャになっちゃってる。」(冗談の声色は、抜けきらなかった。雨だからか、灰色の窓枠から照らされる彼の顔はどこかほんのりと、霞んだような気がする。それは彼の言葉通りだった。先程、彼は何も考えていないと、あっけらかんだと表記した。でも実際は違う。それはみんなに比べたらきっと、ほんの些細な悩みなのかもしれない。『皆と違って能力が発現していない』だなんて。彼は、『可能性に気づいていない』。一般人と変わらずに、貴方達のディスコードが見えないことだってある。伏せた目、まるで仮面ライダーのようなゴテゴテの、いかにもな装置。今日は雨の日だからかな。彼はそれをそう、となぞりながら睫毛を持ち上げた。)「…………………志賀ちゃんも、みんな見たくさ。あるんでしょ、そういうの。」「…………………………なんでヒーローになりてえって、思ったの?」   (5/13 18:13:49)


志賀 幸治> 
「僕も、雨は嫌いじゃない。」(霞んだ街並みに、雨音が雑多な響きをかき消すのが、停滞と感傷を一身に閉じ込められた、スノードームの中みたいだ。 世界にあるのは雨音と僕の心音だけであるような錯覚が、 心地好い微睡みへと突き動かすのが、 その時だけは何も考えなくて良いから、好きだ。すべて、こちたし、と、言わんばかりに世界が仕切られる感覚の好きだ。 ことばを放つのは、きみのひまわりと対照的に、 花瓶に活けられた鈴蘭みたく控えめな微笑みと共にあった。 )(ああでも、何時だっけ。台風とか、大雪とかさ。 どうしようも無い天候で、母さんが迎えに来てくれた時。 あの時からだったかな、好きな物の欄に、雨の一文字が加わったのが。 ) 「 ……それは面白そうだね、 イベントの時にはみんなに頼られるだろうなあ、」( 窓外に広がる雨曇を一瞥して、その声色の違いちふと気がついて、きみへと視線を戻した。君の視線の先を追い掛ける。)
「…………そっか。 そうだね、」(返答に迷ってしまう。 道筋を逃してしまう。 迸る閃光の、揺らぎ。 雨の中の蛍光灯のように、霞んで雨に滲み、 君の輝きも蛍光灯が如く揺らぐことがあるのかと。 想定外に、 沈黙を繕うように、出てきたのは当たり障りない相槌だった。落ち着いた声色は、耳鳴りみたく雨音に溶けゆきそうなほど靜であった。)「七竈君はさ、見えないだけで、きっと僕達には予想もできない能力を持ってるんだろうなって、僕は思うな。 目に見えるものだけが……って、月並みだけどさ、 」( 同情?哀れみ? 否、体裁を取りながらも、裏側を這うのは確固たり同類意識と、親近感と、沸き上がる歓喜であった。 光に、触れる。 ことを、恐れていたはずだったけれど、 触れてみればどうだって無く、質量を持った普通のジュウナナサイであった。 子供の頃通るのが怖かった夜道も、大人になって通り過ぎる様になれば、案外普通だったりするのだ。 きみの、 努比喩でなく血の滲むような、努力の透けて見える豆だらけの手に、洗礼された、その石膏像が如し掌が重なる。雨に濡れたきみの体温は、 ひんやりと冷たく、僕の熱と混ざり会い平均化されていった。 )
「ロマン?って言うのかな、こういうの。 」(僕にはあんまりわかんないけど、と、付け足すのも野暮だから辞めた。 ふと、交錯した視線に、 柔らかく目を細めて。)「僕は…… 僕がこの学校に来たのはさ、みんなみたく崇高な理由じゃないし、きっと聞いてもつまらないよ、 」( 口を開くのには、少しの間があった。 )「此処が今住んでるとこと近いからって言うのも大きい理由かな。 それから、 …… 」( それから、早く死にたかったからだ。碌な死に方で無ければいいと、常々思う。 豪勢な額縁には値打ちの高い絵の入れられ、 安いプラスチック枠には量産品の、たった百円で変える雰囲気だけの、大した哲学も思想もない作品が飾られる、みたいな。 僕なんかには惨めったらしい最期がお似合いだからで、母さんに、母さんへ、してしまったことを、思えば。ぼくは生き永らえている事すら、愁いと違わないのだ。 )(そして、願わくば、僕なんかの命で誰かが助かればいいという、一縷の思い。) (そして、反抗ですらある。 )(ぼくを歪めた、全ての彼らへの。)(はさりと伏せた睫毛に、 幾つもの意味を見い出せた事だろう。 憂う横顔は、皐月いろの愁いに濡れていた。 )
( 君に向けた自嘲じみた笑みが、空の雲行きと重なって輪郭がぼやける。水彩絵の具に、一つ二つ、雨粒の落ちて色が滲むようである 。 その薄墨は、軈て広がりキャンパスを埋め尽くすのだ。母さん譲りの、黒髪と白の、うつくしい色彩。 どのような穢れすら、平気な顔をして啜り飲み込むのが彼であった。 )「だから少し、きみたちが羨ましいよ。 」(僕はどんな顔をしてただろう。自嘲?諦観?羨望?それとも、 ぼくは。 )(ぼくは、ぼくに、質量すら無いのだろうか。言葉だけが、 雨雫みたく、唇から溢れるのだ。)
「ねえ、きみは。 」(ふと、湧き上がる好奇心。)「七竈くんは、どうして? ……どうして、ヒーローになろうと思ったのか、聞いてもいいかな。」   (5/13 19:39:04)


七竈 八六> 
「………はは、志賀ちゃんやっっさしぃ~~~ッ……そうだよなァッ…目に見えるもんだけが全てじゃない。お前はお前のいいとこがあるし、俺ににも俺にしかできねえ事がきっとあるよなァッ……!?」(彼は貴方の言葉に、僅かに間を開けたあと ニカッ、と。眩しいぐらいに笑った。そこにはいつもの〝 七竈 八六〟が居た。いつまでもしおらしくしてるのは自分の柄じゃない。あなたの言うとおりそうであると信じ込むぐらい馬鹿である方が前に進みやすい。貴方の言葉を咀嚼して、飲み込むことは造作もないことだった。…でも、羨ましいなんて感情が無くなるかと言われればそれはまた別。だからこそほんの少しだけ、小さく小さくすればいい。)『僕は…… 僕がこの学校に来たのはさ、みんなみたく崇高な理由じゃないし、きっと聞いてもつまらないよ』「………いいよ、聞きてえから。」(彼は、貴方の話に耳を傾けた。雨が地面を軽く弾んで溶ける音を背景に、それに馴染ませるように薄い唇からは、貴方になげかけた質問の答えが返ってくるのを待つのみだ。)『此処が今住んでるとこと近いからって言うのも大きい理由かな。 それから──────────、 ……』(伏せられた瞳が、話している間に合うことはなかった。つらつらと並べられる言葉に対して、急かすわけでもなにか言葉を差し込むでもなかった。雨模様をあなたの時計が反射する。カチ、コチ、カチ、コチ、と心地よく鳴り響く秒針の音は貴方の心臓よりもよっぽど生きているようだ。)『それから、贖罪、みたいなさ……………………大した哲学も、思想も無いんだよ。僕には。』「………………別にいいんじゃねえのかな、それでもさ。俺ら本当は普通の学生じゃん。…でも、実際はこんなことしちゃってんの、ウケるよな。」(そう、自分達は普通の学生だ。やれヒーローだの、悪党を退治するだの。アニメの中から出てきたようなベターな展開を、現実でやるだなんて気が狂っていると言われたっておかしくはない。必ずしも重い過去を持ってヒーローになるとは限らない。死にたくないから生きるだけ、と惰性で人生を送るような人間もいれば、あなたのようなやつだっている。…彼は、知らないけれどね。)『ねえ、きみは。』「…………………………うん?」『七竈くんは、どうして? ……どうして、ヒーローになろうと思ったのか、聞いてもいいかな。』「…あっはァ~~~ッッ………なあそれ、聞いちゃう?へへ、まあいいけど。」(今度は、こちらが質問された。彼は蜂蜜色の瞳を瞬かせ、なんとなしに困ったような笑みを浮かべる。別に、隠してるわけじゃない。言い淀む理由はないけれど、人に話すようなことでもないからと 無意識のうちにしまい込んでいた彼の背景。)「…………………早く、〝 大人 〟になりたいんだ、俺。」「…それこそ、ヒーロー見たいな大人にさ。」「………………………俺ん家、父ちゃん居なくって。兄弟4人ぐらいいんのに、女手一つで育ててくれたの。………だから母ちゃん、すっげぇ手ボロボロでさ、服もほぼ毎日代わり映えしない。でも何かにつけて、決まって言うんだよな。『母さんは良いから』って。」「………兄貴も、……兄ちゃんも〝ヒーロー 〟で、俺もそれをめざしてて、同じはずなのに決まって言うの。『あぶないから』『怪我はないか』『〝俺は大丈夫だから 〟』。」「……………………そうやって、誰かを妥協させて、無理やり大人にさせんのが………すっげぇ申し訳なかった。」「……………誰かが、『もう無理』『しんどい』『死にたい』って零した時、受け止められるような大人になりたい。理不尽なこと、全力で否定できる大人になりたいし、味方になれるオトナになりたい。………………『子供』じゃ誰も、聞いてくんないし頼ってくんないから。」「……………………なんて、『ガキ臭い』理由。」(母親はいつも髪が乱れていた。容姿を気にかける余裕が無いぐらい日々に追われてきたんだろう。手伝えることはなるだけするようにはしている。バイトして、家にお金入れて、早く大人になって、もっと役に立てるように。) 
(…幼馴染がルクレルク人だからといじめられたあの日だって思ったさ。『子供だから』と。)(きっと周りを見たら、『大人にならざるを得なかった人間』は大勢居るんだろう。だからそんな人たちが『子供らしくわがままをこぼした時に、受け止めて寄り添える』大人になりたい。)(大人に。)(………大人(ヒーロー)に。)(………──────────不意に彼は、もしかしたら。貴方の頭に手を伸ばそうとするかもしれない。見えない壁は無いのと同じと言わんばかりに。貴方の母親譲りの、かつての自分と同じ柔らかな黒髪をくしゃくしゃと乱すように撫でやろうとする。)「……………志賀ちゃんさっき、…話してた時。………………なんとなく。ちょい〝 泣きそう 〟な顔してるように見えちって。」 「……………………ごめん流せなくて。ごめん、ほっとけなくて。でも、〝 気のせい〟じゃなかった時が嫌だったから。」 
「……………………… …気のせいだったら、タオル貸してくれようときた、このお礼だとか。……からかってるとか、好きに受け取ってくんねえかな。 」 ( きっと大人だったら、きっとほかの人だったら。こんなことはしないはずだった。軽く流したって貴方は微笑みをたたえているに違いなかった。でも、いかんせん彼は『ナナカマド ハチロク』なもんだから。)   (5/13 20:32:31)


志賀 幸治> 
(肯定の言葉のかたちを、彼は穏やかな顔で飲み込む。踏み込まない、軽い口調でいて、励ましの意が籠ったあたたかな言葉に、僕の肚の底に横たわる罪悪の質量が僅かばかり軽くなったような気がしたのは気の所為だったろうか。 これを救い、ととるか、無責任ととるか。 かつての僕なら、きっと無為な言葉と突き放した事だろう。しかし、 古来より影は光に呑まれてゆくもの。 「そうかな、」と、安らかに、飲み込むように、水の流れる見たく。普段の調子で重ねるのだ。君の抱えた愛おしき願いも、ぼくの背に佇むくらやみも、等しく他者から、真の意味で理解はされないだろう。 だからこそ、 これで良かった。すう、と小さく息を吸う呼吸音。 梅雨の運ぶぬるい風は、思考の整理には些か物足りない。 )「大人………………? 」(普段おちゃらけた、溌剌なきみは、時折、とても意志の爛々と輝く横顔を見せるのを、少しだけれどしっていた。 斜め後ろに見ていたその姿が、 今はとても近いものに思える。雲の出て翳りが出れど、 その輝きは、君の心臓に根を張ったみたくそこにあるんだろう。 黒の真珠は君を見詰める。 小さく頷いて、しかし、 余計な言葉一つ挟まずに咀嚼するのだ。 そのあいだ、その青年は、安らかで、教会に置いてある聖母像を掠めるような、 きみの追い求める大人みたいな顔をしていた。 若さへの羨望と応援、慈しみ。 ……………… そして、 自身への諦観。 )( 君と僕は、思えば、真反対の位置に立っているんだろう。 環境や、様々な契機すら異なった。 対角線の交点にいることは、言い表すならば不思議な感覚であった。思考すらばかばかしいほどで、あるはずなのだ 。 比べる地点にすらなかった。 だって、考えたって虚しいだけだろ。 
〝お兄ちゃん〟も、〝父さん〟も、〝母さん〟ですら、きっと、ぼくでなくてよかったのだ。きみが聞いた、『あぶないから』『怪我はないか』『〝俺は大丈夫だから 〟』という言葉達と、僕のいつか掛けられた言葉たちの、本質はきっとまるで違うんだろう。 〝子供〟であることを強要されたことなど、生まれてこの方無かったような気すらする。 『大人びてて偉い子だね、』誰かが僕をそう評価すると、 母さんは決まって嬉しそうな顔をした。 ぼくの髪が伸びると、彼奴は決まって喜んだのだ。 …… 喉奥に絡まる不快感を下へ下へと押し遣る。 醜く嫉妬に狂いきみを傷付けようとする言葉を吐きたくなくて、 ぼくは、また〝見ないふり〟を重ねて、 甘やかにミルクを溶かしこんで言葉を発したんだっけ。 (せめて、光へと近付けるように。 )きみと接していると、なんだか僕も、素晴らしいものになれそうな気がする、なんて、同一視も甚だしいだろうか。 きみなら、こんな後ろめたい考えだってさ、普通の顔して、笑い飛ばして許してくれるのかな。 )「上から目線みたいな言葉になってしまうけどさ、 七竈くんは偉いよ。 そう考えてる時点で、周りよりもう何倍も大人だと思う。……僕はね。 尊敬できるな。 」( 本当の子供は守られていること、その事実にすら気付かない。庇護下でぬくぬくとすごしていく普通校の生徒達を見た彼は、きみが『ガキ臭い』と言った何倍も、その考えを尊いものだと思ったはずだ。 )「ふふ、 そっか。 」( その、 無骨で瑞々しい掌が髪をはぜると、彼は今まで見せなかった、とびきりおかしな顔をした。 丸めた目は、 すぐさま細められ、 柔らかな、されど無機質さのない、 自然体の笑みへと様を変えた。 ふふと、笑うのが松風の頬を撫でるような、爽やかな笑いを見せ、この声色は明るく、〝年並の男子高校生〟らしいかった。 生まれてこの方、と言えば嘘になるかもしれないが、 久しく、純粋な温もりなど感じてこなかったからだった。 擽ったく気恥しいのを隠すように、 次に並べた言葉は冗談めいた調子だったろう。 )「じゃあさ。僕も辛くなった時、〝大人〟の 君に頼りに来ようかな。 」 (ちら、と、君のイエローを見遣る。 その原色が痛いくらいであったのに、今では、 何故だか暖かな質感を持ったものに変えた。自分語りのこそばゆさに、係る髪を耳に掛け自身の耳に熱が集まって居ないことを確認したのだった。そのほころんだ笑みは、いつもより幾分か幼く見えたはずだ。 )   (5/13 23:27:37)


七竈 八六> 
『上から目線みたいな言葉になってしまうけどさ、 七竈くんは偉いよ。 そう考えてる時点で、周りよりもう何倍も大人だと思う。……僕はね。 尊敬できるな。』(···············彼は、幸せなんだと思う。だってまだ何も失っていないから。かけがえのないものを、譲れないものを妥協で手放したことなんて1度もなかったから。失っていないからこそ、誰よりも上手な『諦め方』を知らないから。対する貴方は大人にならなくちゃいけなかった。貴方が大人になればなるほど、周りが喜んだ。 子供で居させてあげたい愛情と、大人として成長する子への喜び。どちらの感情にも間違いなんてどこにもない。 『子供でいることへの焦燥』と『子供には戻れない諦観』。彼と貴方はどこまで行ったって相対的な存在だった。対角線上の斜め下、貴方は彼の後ろ姿を見ていて、彼はプリントを回す時だけ横顔に目が行くように。)醜く、タールを煮詰めて掛けたような嫉妬心を抱かれているなんて彼が知らないように。貴方もまた、彼が『達観した遠くにいる貴方』をどこかで羨んでいることを、何故自分は、とほんのりと比べてしまうことを分かりやしないんだろう。)(…小雨になってきた。雲の隙間から光が差す。)(互いに無いものねだりだった。今日はほんの少し、雨の中。時間があったから交差した。貴方のあどけなさの残る顔を、彼は忘れやしないだろう。〝 そんな顔が出来たんだ〟って。でも、次日常に溶けた時、またいつもの日々に完全に戻ってしまうのは少しばかり淋しいから。)『じゃあさ。僕も辛くなった時、〝大人〟の 君に頼りに来ようかな。』「………辛くなった時じゃなくてもいいよ。…あ゛ーー、……いやその、なんつうか、さ。暇な時とか、遊びに誘ってくれりゃあ全然行くし。カラオケとか、ゲーセンとか。」「………………これからの季節なら海も良いかも。」(悲しみは半分、喜びは2倍。いいじゃないか、〝 普通の友達〟みたいなことしたって。大人になりたいとはいえ、子供に戻りたいとはいえ。我等はその中間地点の、『男子高校生』だろう。)「……てか、雨もそろそろ上がってくるんじゃねえかな。俺も弁当取りに来ただけなのに、話すの楽しくて長居しちった。」(彼はリュックサックを手に持ったのならば、それを肩に少々雑にかけて、立ち上がる。そして立ち去る手前、きっと彼はあなたに当たり前のように誘いかけるはずだ。)「……一緒に帰ろ、志賀ちゃん。」   (5/13 23:48:45)