シュガー・ヴィスケット

The man.

和枕 音子> 
「 もーぅ。あんなに大きいのに、どうして探そうとすると見つからないんだぁ……?」( ぎぃぃ、ばたん。) ( 重石がついてるのかってくらい鈍る足を動かして、侵入不可とばかりに重たい扉を、身体全体使ってどうにか開ける。軋む音は金属音と、あとは黒板を引っ掻く音によく似ていた。不快である。) 「 今日は風、強くないから…………ここにいるかとも思ったんだ、けど。」( 独り言は伝えるべき相手を見つけられず、虚しく空を漂った。昼休みも半分を過ぎた頃、屋上にはひとっこひとり見当たらない。校庭にも人は疎らで、白く引かれたトラックの1本1本すらよぅく見える。ぼくは落とした肩の先、手に余る大きなそれをぎゅうと握った。) ( 〝 The man 〟と言う青年くんから借りたゴーグルを返し忘れたと気付いたのは、一人で暮らすアパートに辿り着いてシャワーなんか浴びちゃって、コーヒー牛乳片手に喉を潤し終わったあとだった。つまりは後生大事に自宅まで持って帰ってきてしまったのだ。)( あぁ、これはまずい。らしくもなく、ちょっとだけ慌てた。慌てたから、彼を探そうと思い至って____本名も、学年も知らないことに顔を蒼くした。自らの同学年すら把握出来ていないのに、広大な校舎の中から一人を探し出すなんて無理難題だ。それでも、と休み時間のたびに地下一階から三階までを練り歩いてみたりしたのだけれど、当たり前のように成果はなく。諦め半分の気持ちを抱えながら、一縷の望みを欠けて屋上から探してみようと思ったのだった。) ( ぐしぐし。ゴーグルを握る手と反対の指先で、微睡む瞼を擦った。眠気は、『 もう諦めなよ 』と、ぼくを揺さぶる。努力なんて、らしくないどころの話じゃあないだろう? ) ( ______とりあえず。きみを探すことは継続しようと、周りを囲むフェンスに近付いては、網越しに下を覗き込む。)   (5/19 17:37:54)


シュガー> 
「俺に。俺に借りたゴーグルを返したい。」声が聞こえた。あのいつでもその語尾からは嘲りの笑いが聞こえてきそうなほど嫌味ったらしく、それでいて歯切れのいい声が。その声は君の後方からだった。君が体全体でこじ開けたその扉。それを最も簡単そうに開け、入ってくる。君が今日一日の休み時間をかけても見つけられなかった。あの男が。「...散々と歩き回って、結局俺が見つからず途方に暮れていた。そんな所かな。」彼は見透かしたようなことを言う。君へとそのコンパスの長い足で全くの危なげも躊躇もなく進む。彼の口からは「そうして、ついに最後の最後。ここでも見つからなかった...もうやめてしまおうか、だろ?」だなんて最後の最後まで見透かしたような言葉が流れた。 「お前のその足と体力で探して回ったことは褒めてやるさ。...最も、俺を探すお前を見つけたのは、俺だ。お前じゃない。」彼はいつだってそんな風に君も、君以外も見下す。相手が傷つくだとか、相手への失礼だとかそんなものに微塵の興味もない彼なのだから。彼はその大きすぎる体をずかずかと動かしては、君の隣のフェンスにもたれかかった。「案外覚えているんだな。俺はてっきりもう忘れてると思っていたのにな。だが、まぁいい。犬は三日の恩を三年覚えているだなんて言うだろう。猫だって三日は三年の恩を覚える。...人間は、恩を覚えるし、恨む生き物だ。忘れることはない。」彼は無表情に言った。わかりにくく、遠回りに。恩を忘れた君のことは犬や猫なんかと一緒であり、恨まれていたら昨日の発言のいくつかが間違っていることになるからそうでなくては良かった。そんな傲慢で嫌味な意味だった。   (5/19 18:12:10)


和枕 音子> 
『 俺に。俺に借りたゴーグルを返したい。』( ______声は、眠気を吹き飛ばすように、ぼくの頭蓋に響く。たった一言。一言でも、その声音に混じる不遜さや重圧には聞き覚えがあったから、ひとつの瞬きを挟んだ後に『 きみ 』を振り返ろう。)「 …………きみは、相変わらず、この世すべてを分かっているとでも言いたげだね。それとも、ぼくごときの思考や発想なんかは、全部お見通しってこと? 」( 見透かすような、見下すような言葉を並べ立てながら、彼は大股に歩を進める。がしゃり。精悍な肉体を受け止めたフェンスは、少したわんで鳴き声をあげた。)「 それでも。」「 きみから見つけてくれて助かった。盗人にはなりたくないから、最悪の場合は校内放送でお呼び立てしなきゃかと思っていたんだ。」( 「 木の上から蟻を探すようなものだろうに、よく見つけられたものだね、きみ。」と綴って、隣に並び立った青年の、光を透かした葉一枚に似た色を眺めるのだ。あの時はまったくさっぱり気付かなかったけれど、彼の気難しげな瞳は自分のものと同じ色合いをしている。とろりと甘い蜂蜜なんかじゃなく、どちらかと言えば、煌々と熱を放つ太陽みたいだけれど。)( まだ見慣れぬ仏頂面からは、オブラートに包みきれない苦味がつらつらと溢れる。先の『 ペット 』発言しかり、今の犬猫の例えしかり。きみはもしかすると、ぼくを本当に小動物だとでも思っているんじゃあないだろうか? しかもそれは、庇護欲なんかじゃなくって。お前のことなんかいつでもぷちっと潰せてしまうんだぞ、と言うような______。) 「 哀しいかな。ぼくの記憶力は非常に優秀なんだ。覚えることだけなら、ちゃんとできる。」「 ねこはねこでも猫じゃない。______ぼくは恩も恨みも、死ぬまで忘れない。」( 大事に大事に握っていたゴーグルをきみに差し出して。 ありがとうの代わりに「 にゃあ。」なんて鳴いてみせる。猫じゃないと言った矢先ではあるが、些細な発言に意味を求める方が間違っているのだと言いたいね。野良猫は、向かうべき場所など考えない。傲慢で嫌味なきみの言葉も、何のことなしに右から左と聞き流すのである。)   (5/19 18:48:38)


シュガー> 
「さぁな。俺はただのお遊びだ。お前の思想やら行動は面白いとは思ってるさ。...ファニーという意味でな。」彼はそのどこか受け流すように、揶揄うようにしてのらりくらりとやり過ごす君の言葉を同じように適当に躱しておいた。「『木の上から蟻を探すようなものだろうに、よく見つけられたものだね、きみ。』だなんて言われれば、「シュガー(砂糖)が居れば、蟻も近寄ってくるだろう?俺はただ居ればいいんだ。そっちから寄って来るまでな。」だなんて冗談混じりに、しかしいかんせんのヒューモラスも感じられぬ顔つきで言って見せた。彼はフェンスに背中を預けたままに、そっと目尻の方で下の人間を見ていた。やや特殊な環境といえどここにいるのは大概が世に言う高校生。昼休みに外で活発に動き回る姿は少なくなかった。時折に聞こえる声はどこか将来を感じさせるようななんとも言えない自信と高揚感と、土臭い声だ。ただ、それを笑いもせず、また何か攻撃的な言葉を述べることもなく。静かに見下していた。君が猫だとか恨みだとか恩だとかそんな話をしてゴーグルを差し出してくればこれまたなんの感慨も無く受け取った。そしてそれの紐指の先の引っ掛けてはくるりくるりと弄ぶようにして回した。彼の君に対する小動物を見るような視線を君が気にしていたとしても彼は一切の特別な感情も何もない。どうせそれは口に出すか出さないか。それくらいの違いしかないのだから。   (5/19 19:30:41)


和枕 音子> 
( 適当だ。彼の受け答えはどこまでも適当であった。適当で、適切。真面目に〝 ヒーローとは何たら 〟だとか〝 世界とは何たら 〟などといった言葉を口にしないところは、下手な一般生徒より口を利きやすいものだった。『 おあそび 』くらいが、人との距離感としては相応しいのだから。笑音もなく、口の端を微かに上げた。 )「 生物なんて、他種族から見たら皆々奇妙で愉快でエキセントリックだよ。」( 人間なんてその中身が同じなだけで、それ以外は何もかも違う________言ってしまえば、種族違いみたいなものだ。相手の思考は読めず、かと思えば突拍子のない行動をする。習性なんてアテにはならない。青年が『 Funnyだ 』と感じたのも、自分とは違う存在に対する当然の反応でしかないだろう。)「 …………きみのつまらなそうな日々における、僅かな娯楽になれたのなら、まぁ、悪くはない。」( それが瞬きの風圧で塵となって消えるような愉快さであったとしても。)『 シュガーが居れば、蟻も近寄ってくるだろう? 』「 そりゃあ、こんなに大きなお砂糖くんが鎮座していらっしゃったらね。 」「 今日誘われたありんこは、どうやらぼくだけらしいけれど。」 ( きみ、冗談なんて言うんだ。) ( 返答には少しの間を取った。鉄仮面の男は、少なくともユーモアに長けているようには思えなかったから、すぅっと琥珀色の目を丸々くしてしまったことも仕方のない行動で。真下に広がる有象無象を、きみがどんな想いで意識に留めているのか。そんなことはこの短い付き合いで察せるはずも無い。ぼくは先程のきみと同じように、その背に金属の感触を確かめては、ずるりずるりとコンクリートの地面へと座り込んだ。)「 ______で、『 お砂糖くん 』。」「 ぼく、まだきみの名前を聞いていないんだ。ヒーロー名だけしかしらない。きみがヒーロー名で呼ばれたいって言うなら話は別だけれど____、 」( 名前、聞いてもいいかい。この問いに、深い意味などはない。) ( きみが答えようと答えまいと、どちらだって、和枕音子は変わらず『 お砂糖くん 』と呼び続けるだろうから。)   (5/19 20:07:37)



シュガー> 
「愉快なもんか。どいつもこいつも反吐が出る連中だ。」彼は吐き捨てるようにして言った。彼は誰も好かないし、誰にも媚びない。こういう時もまた。彼女と意見が違ってもそれを飲み込むなんてことはしなかった。「...娯楽、な。」彼は意味深長げに繰り返しては、そっと口を瞑った。冗談に関してもこれ以上無駄に口を開けるつもりもなかった。二人の間には、友情も思い入れも存在していない。お互いにフェアでフラット。故に、あの空に浮かんだ雲のようにありふれていて取り留めのない言葉を溢すだけで深く追求することは無かった。ガシャリっ...キィ...なんて控えめな金属音。君がその小柄な体格をフェンスに預けて、そのままに座り込んだ音だった。本当に、意味もなく彼はそちらを向いた。顔では無く眼球だけをそちらに動かした。「______で、『 お砂糖くん 』。』「なんだ。『野良猫』。」『ぼく、まだきみの名前を聞いていないんだ。ヒーロー名だけしかしらない。きみがヒーロー名で呼ばれたいって言うなら話は別だけれど____』(名前を聞いてもいいかい。)彼は、息を静かに噴き出しながら一言、「嫌だね。」と。「俺はわざわざ、俺じゃ無くても答えられるようなことを俺の口から言うのが大嫌いなんだ。...それとも。一日かけて俺を探し出せないようなお前が...。俺に名前を〝話させる〟だけの何かを持っているのか?」彼は揶揄うようにしていった。それから君と同じように地面に座った。彼は目の前の君を警戒してはいない。する必要もない。だが、同時に信用してもいないのだ。おいそれと名前を言うことがどんな結果を招くのか。どんな厄介事を持ってくるのか。貧しく治安の悪い幼少期を過ごした彼にはよく分かっていた。   (5/19 20:36:48)


和枕 音子> 
( おしりの下に敷かれた地面は、のんびりとした太陽に照らされて生暖かい体温をしていた。清掃されているとは言っても屋外だ、白いパーカーの裾が汚れてしまうんじゃあないか____そんなこと、考えもしない。服は、服だ。汚れなんて洗えば落ちるし、着続ければいつかは擦り切れてごみ箱の中。布の一枚や二枚がどうなろうと、知ったことではないのだった。彼が吐き捨てた音が降ってきても、ゆるゆると首を傾けるだけで。) 「 そう? まぁ、ひとそれぞれ、だ。ぼくは愉快だとおもうよ。」「 それは稀に、嘲笑をも含むけれどね。」( 言葉に、返答など求めてはいなかった。娯楽という一単語に、きみが何を見出したのか。疑り深いぼくと不遜なきみの間に溜まる意味深げな沈黙はまっさらで、そこに何かしらの真意があるだなんて思えないほど。沈黙なんていう在り来りの反応に深い深い何某かを込めるなんて真似を、きみがしそうになかったからでもある。) ( 視線の矢が、こちらに向けられた。)『 嫌だね。』『 俺はわざわざ、俺じゃ無くても答えられるようなことを俺の口から言うのが大嫌いなんだ。』「 __________だろうね、きみはそう言うだろうよ。」( ころ。) ( 鈴を転がした音は、不格好な笑い声。) ( からからと喉を鳴らす。砂糖菓子にしては毒々しいきみが座って、腰を落ち着けるのを待って、)「 名前というのは、一種の〝 記号 〟でしかないとおもうんだ、ぼくは。」「 書類の上で見た記号は、単なる文字でしかない。無機質な文字ときみ自身を結びつけたくはないっていう、矮小な女の我儘。」( サンダルをかかとに引っ掛けるようにして、傍目も気にせず両膝を抱えた。黒いニーハイソックスの布地を、その奥の小さな膝頭の感触を頬に当てて、ぼくは口を開く。視界の端では、灰桃色の毛先が地面にぺしゃりと丸まっていた。)「 きみがいま、ぼくに名前を言いたくないのなら。ぼくは勝手に『 お砂糖くん 』と呼ぶことにするね。」   (5/19 21:21:38)


シュガー> 
「『お砂糖くん』...?......。まぁ...いい。」妙に生返事だった。彼にしては珍しく歯切れが悪い。いや、もっと言えば。何か言いたげではあったが、それを飲み込んだ、という感じだろうか。『お砂糖』くん。それは確かに可愛らしくて、あだ名としては良いのかもしれない。彼らはまだ高校生。ちょっと特殊なあだ名なんてついていてもそれもまた青春というものだろう。...だが、彼は違った。彼は、青春などとは程遠い。もっと泥臭くて、血の滲むようで、過酷な人生の中で生きてきた人間だ。他人を嫌い、自己を嫌い、一心の念だけでまともな教育もなしに今ここに立てている。そんな人間だ。そのような彼に君が提示した、『お砂糖くん』だなんて甘すぎる名前は...あまりにも異物だった。彼のその高いプライドはそれをはっきりということなんてことはさせなかったが、彼も少々狼狽してしまう。彼はその動揺を。顔にすら現れていないような微かな動揺を隠したいが故に、ふいと目を逸らしてしまった。座り込んで膝を抱える君には見えているかどうかも怪しいだろうか。思えば。このような態度をとっても、ある種温厚な人間というのは彼の経験には少なかった。大概が、幼き日々に関わってきた暴力的な連中か彼のその高慢っぷりに嫌気が差して早々に撤退するような人間ばかりだった。コード高等専門学校。そこに集まるのは、色物ばかり。だが、この色物の手綱を握らなければいけない、ここを乗りこなければいけないのだと。彼は再びそっと心を引き締めた。   (5/19 22:03:00)


和枕 音子> 
( ぼんやりとした返事であったのを気にするべきか、つんつこ突っついて草薮から蛇か熊かが出てくるのを待つべきだろうか。数秒思考と思案を重ね。結局、膝に当てた頬を反対にして、きみの方を向くだけに留めるのだった。) ( 触らぬ神に祟りなし。) ( その表面を撫でるだけで充分面白い反応がかえってくるのだから、それで満足なのだ。)「 お砂糖くん______は、何年生? それとも、学年も内緒のままがいいのかな……。」( 昼休みは、きっともうそろそろ終わるだろうから。ぷかぷか浮かぶ白雲みたいな会話を、最後まで続けようとする。高層ビルより高いプライドを持つきみとは、実りのない雑談を交わすことすらどこか難しい。回り道に遠回り。目の前に広がる地雷原に、常人であれば尻込みをして回れ右をしたのかもしれない。)「 別に年齢がどうって言う気はないから、ね。名前が記号なら、生まれてから何年かなんて……ただの消費期限を推測する道具でしかないんだし。」( ただ、和枕音子は我ながら笑ってしまうほどに『 常人 』ではなかった。) ( 自分が尻に敷いた校舎の中にいる人間は、皆きっと常人ではない。ぽつりぽつりと何の変哲もない、世界のことなんか何にも知らない少女のような口振りで、きみに話を投げかける。ぼくは〝 努力 〟が大嫌いだったけれど、がんばることも嫌いだったけれど、自分を押し付けて来ることのないひとは、比較的気に入っていた。)「 ぼくの名前も、きみは興味がないだろうし………………ほら、せっかくだし、ぼくにも一個くらい何かをプレゼントしてくれてもいいんじゃあないかなぁ。」「 ペットは、餌がないと死んじゃうんだ、し。 」( 目を逸らしてしまったきみ。何を思ってそうしたのかは分からない。それでもきみが、この残り少ない昼休みの間にこちらを向いてはくれないかという、ちょっとした試み。きみの横顔に、眼鏡の縁に、じぃっと視線を送るのだ。 )   (5/19 22:31:32)


シュガー> 
「...1年だ。」彼はまたもやどこかで納得がいかない。そんな風な感じでぶっきらぼうに告げた。そして付け足すようにして「お前をペットだとかそんな風には微塵も思っちゃいないが。断じていないが。...今日はお前のその労力に報いてやる。今日だけだ。」と。なんとも言えない心境だった。別に、隣にいる彼女のことを好きだとか、恋してしまっただとか。そんなウブで、甘酸っぱい感情を抱いた訳ではない。彼は相変わらず嫌いだ。大嫌いだ。ヒーローも人間もカミサマも。...ただ、憎むことも出来なかった。それは理由がないから、というよりも。まだ彼が、それこそ〝砂糖〟のように。甘さが微かに残っているからだった。憎しみも悲しみも怒りも喜びも。生きていれば必ず劣化していく。劣化して、綻ぶ。その綻びを縫い合わせないと、そこから大きく崩れてしまう。彼はまさにその手前に位置していた。今まではその環境の過酷さに、歯を食いしばり、奥歯をギリギリと鳴らしながら恨み憎みながら生きてきた。しかし、今はその環境も変わってしまった。それを誰よりも自覚しているのは彼だ。しかし、誰よりも見て見ぬふりしているのも。きっと彼だろう。「......お前は。お前は。どうなんだ。」彼はようやくこちらを向いた。その目はいかにも不服そうに歪んでいた。よく見れば、前髪の下なんかは傷だらけでそれを隠すためにセットしていることがわかるだろうか。目だって、君のように綺麗じゃない。汚れてしまっている。それはきっと色や形の問題ではなく。もっと内面的な意味で。   (5/19 23:28:19)


和枕 音子> 
( 苦々しさの出汁が滲み出た声音を片耳に挟んで、波打つ髪の一本一本を指折り数えるみたいに視界に収める。____あぁ、不器用な子なんだなぁ。不器用、もしくは青々しい。ただ、そんな情を垣間見せたら最後、きみはいきり立って帰って行ってしまうかもしれなかった。だから、ゆったりとした瞬きの裏側にそうっとしまい込む。) (『 一年生 』で、ヒーロー名が『 The man 』。背が高く、日々の訓練を欠かさないことで得られるであろうしっかりとした身体付きを持つ男の子。その情報だけで、きみの名前なんかは簡単に知ることができる。だけど、たぶん________ぼくは、知ろうとしないのだ。きみから与えられた事柄だけを握って、抱えて、それで満足するのだ。調べあげて喜ぶようなゴシップ精神は、生憎ぼくには無かったから。)「 ぼくも、きみのペットになったつもりはないよ。どこまでいっても、飼い猫にはなれないって分かっているもの。……………………でもね、教えてくれてありがとう。お砂糖くん。」( お礼は、小さく小さく囁くものだ。むっつりとした声をしながらも応えてくれたことに。ぼくを置いていかないでくれたことに。わざわざ、ちいさなありんこがお砂糖に寄っていくまで待っていてくれたことに。) ( 疑い深いとは、また、観察眼にも長けているということに他ならない。きみが、日の目から隠すように潜めた傷跡たちも。世界の裏側を覗いてしまったみたいにくすませてしまった蜂蜜色も。こちらを向いてくれたから、それらはぼくの拙い目にも留まった。)『 .....お前は。お前は。どうなんだ。』( 不服極まりないと歪む目を、まっすぐに捉えて。)「 ぼくは二年生。17歳。__________たよりないけど、せんぱい、だ。」( きみが背負ってきたすべてを、視界内に収めて。収めるだけ収めて、ぼくはとろんとわらう。)( ぼくは、〝 努力 〟を呪っている。)( けれどそれは、他人の培ってきた傷や成果までをも呪い嫌うものではない。 )   (5/19 23:58:52)


シュガー> 
「そうか...。」全くもって調子が出ない。話が続かない。いつもいつも怒って恨んでばかりだったものだから。競争しかしてこなかったから。興味が無い。さっさとどこかに行ってしまおう。普段の彼ならばそう思うだろうが今日に限ってそれではなんだか負けた気がするのだ。勝負でも無いのに。目の前の君は戦う気すらないというのに。それが悔しくて悔しくて。何よりも不可解だった。不器用という優しい言葉では、片付けられないほどに歪んでしまった彼の内面は君の笑った顔すらも、良い印象を持つことができない。苛立ちだけが込み上げてきて自身の持つ破壊衝動にも似た何かが彼を中から崩そうともしていた。「...さて。それじゃあ俺は帰るかな。娯楽というのは多忙の中の一瞬だから娯楽なんだからな。」彼はそう言って無理矢理に話を切って立ち上がった。足の汚れを軽く払っては眩しそうに頂点から緩慢に落下する太陽を手で遮る。去る時に何か余韻を残すようなことができれば良かったのかもしれない。君が笑ってくれたあの時に。いくつかの冗談を言ってくれたあの瞬間に。何かすればこんな気味の悪い感情にはならなかったのだろうか。そんな思考ばかりが頭を駆け巡っていた。だが、彼は傲慢で意地っ張りで、負けず嫌い。自身から縋るようにして話を続けるなんてまっぴらごめんだ。相手が話したいくらいに切ってやるのが、丁度いい。それこそが〝遊んでやるということだ〟。そう自分に言い聞かせて屋上を去った。___クソッ...!なんでだッ...!?ようやく...ッ!ようやくここまでッ...来たんじゃないか...。俺はッ...。俺は...他人も、自分も...『支配』するしかない...ッ!」そんな独り言を、言いながら彼は階段を降りた。だが、どれほどの強い言葉でも、確固たる覚悟でも。...彼の気持ちを晴らすことはなかった。そういえば。あのゴーグル。座った時に、君の近くに置いて。...確か...。それから...?   (5/20 00:40:31)

和枕 音子> 
( ____________夕暮れ。) ( 最終下校時刻を告げる鐘もそろそろなり始めるであろう、そんな放課後。橙色と群青がせめぎ合うときに、ぼくはきみの背中を見つけたのだった。) 「 お砂糖くんだ。」( 呟きはきみに聞こえたか否か。もし聞こえていなかったとしても、決して足は止めないようなひとだから。今まさに昇降口から外へ出ようとしている彼を追いかけるべく、ちょっと小走りで駆け寄っては並び立つ。) 「 お砂糖くん、こんばんは。いま帰り? 」( そもそもの背丈、歩幅が違うわけだから、普通に歩くきみに並ぶには常にこちらが早歩きにならなければいけなかった。きみの返事の有る無し、快不快の感情に関わらず、せかせかと足を動かしながら、) 「 ぼく6時限目終わりから保健室で寝ていてさ、気付いたらこの時間だったんだけど、ね。だぁれも起こしてくれないなんてまったく、かなしい話だとは思わない? 」( もともと昼休みから抗えぬ眠気を感じてはいた。あぁ、これはどうやっても寝るなって思ったから、授業をふらりと抜けて保健室のベッドに引きこもったわけだけれど。)( 更に言えば恐らくきっと、保健医は起こそうと試みたに違いない。ぼくが一切気付かなかったという話だ。) ( とたとた、ぱたぱた。) ( お砂糖くんがどれだけ嫌な顔をしようとも、せめて校門まではいっしょに行こうと笑いかけることだろう。そうして聞かれてもいない経緯をぽつぽつ語っては視線を隣から前向けて、ようやっとぼくは気付くのだ。) 「 _____________どうして、」「 どうして〝 公衆電話 〟が、校門に置いてある、のかな……。」   (5/29 15:42:57)


シュガー> 
_彼女は何故そこまでして自分に話しかけてくるのか、だなんて自意識過剰な疑問は一先ず置こう。彼女のなんの当たり障りのない、もっと言えば毒にも薬にもならないような一日の報告も今じゃなくてもいい。今は彼女が見つけた。『公衆電話』にこそ焦点を当てるべきなのだから。先ほどまでの、なんとも言えない眉を顰めた表情も思わずに早くなっていた脚も今ではすっかり消えていた。そこにあるはずのない。あったわけがない公衆電話。そのどことなくに醸し出される異端な雰囲気は彼を警戒させるに十分であった。心のどこか端っこの方で、あれはカミサマなんじゃないのかだなんて疑念が言葉にはならないが、確かな感情として芽生えていた。「さて。...あれ。どう見ても普通じゃないよなぁ。悪戯か?それとも...〝本物〟か?...この際の本物は、公衆電話なんかじゃないけれどな。」おかしな話だ。今時に公衆電話?それもこんな校門の前に?このご時世、テレビでさえも既に廃れ行く文化となりつつあると言うのに。そんなものを設置したって元を取れるはずもないだろう。不自然なのだ。それがなんらかしらのバイアスに基づく、肯定的な思考回路であったとしてもどうも合点がいかない。考えれば考えるほどに、あれが通常の公衆電話であるとは思えなくなってくる奇妙な感覚。いいや、疑心。彼が本物という言葉を使って明言してカミサマという語を使わなかったのも、そう言う思考を、可能性を排除したくなかったからである。だが、やはりと言うべきかなんと言うべきか。あれが正当なものであるという根拠を彼は見つける事ができそうになかった。   (5/29 16:05:37)


和枕 音子> 
( 公衆電話とは、不特定多数が利用できる公共の電話機である。公衆電話専用として設計された電話機が用いられ、単に近距離通話のみができる電話専用タイプが主流であるが、国際電話も可能であるもの、インターネット接続が可能であるものなど様々である______Wikipediaより、一部引用。) ( それが、校門にあった。朝は無かったはずの電話ボックスがあった。もしかしたら新しく設置したのかも、なんてこともあるだろう……が。) 『 ...あれ。どう見ても普通じゃないよなぁ。悪戯か?それとも...〝本物〟か? 』「 悪戯で置いておくには、ちょっと可愛げのないものだ。わざわざどこかから盗んできた………………なんて、そんな都合の良いことあるはずがない……よ、ねぇ。」( 足取りを緩めたきみに合わせるよう、ざり、と砂を鳴らして立ち止まる。スマートフォンを持ち歩く時代だ。もし携帯が無い子がいたとしても、職員室の教師に言えば端末を貸してもらえるだろう。まったくもって、〝 校門前の公衆電話 〟は、必要性に欠けるのだった。)( 本来であれば、どちらか一人がくるりと踵を返して職員を呼んでくるっていうのが正しい行動であったろう。何せ背後にあるのは学校、カミサマ的怪奇現象はまずプロに頼むのが一番なのだから。) ( ________ただ。)「 さて、進むか、戻るか。」「 十中八九、きみの言うところの『 本物 』だろう、ね。自律行動しないタイプであることを祈って、そっと後ずさって校舎に戻る、のが最適解じゃないかなぁと思うん、だけど…………。」「 でも、せんせいたちは〝 小難しい会議の真っ最中 〟らしいよ、お砂糖くん。」( 保健室から出る時にあった保健医が言っていた。『 これから、緊急で会議だから早く帰宅して。』『 ちょっと問題があってね…………会議もいつ終わることやら。』つまり、非常に忙しいってことだ。ぼくはぴりりと警戒するきみ、鎮座している得体の知れない公衆電話のどちらもを視界に入れて、結論が分かりきった質問を口にする。)「 ぼくはきみに合わせるけれど、どうしようか。職員室、行く? …………それとも。」( あの受話器を、取ってみる? )   (5/29 16:41:20)


シュガー> 
「...わかりきっている。それにこれはラッキーでもあるんだからな。」彼は彼女の質問に明白に答えることはしない。だが、自分に言い聞かせるように、彼女に知らしめるようにして口を回すのだ。「そう。ラッキーなんだ。...ここで何かの功績を残すことができればあのヒーロー共への一手へとなるからな。超えてやるんだ。超えなきゃいけないんだ。......こういう言い回しは俺の好みじゃないんだが。」彼は相変わらず彼女の方を見たりなんかはしない。ずっと背中を見せている。警戒も、好奇もない。それほどまでに見下しているから。だが、次に出た「そろそろ、お前も俺のことをほんのちょっぴりは理解出来ているんだろう?」なんて言葉は信頼というべきなのだろうか。それともこういう異端な二度目の怪奇に襲われたことによる倒錯か。どちらにせよ、彼女がきっとついてくるだろう。ついてこない訳がない。そう言う思考が彼の中には既にあったようで、彼女が何か言う前に、彼女が何か行うそれよりも先に彼はあの公衆電話へと向かっていった。   (5/29 22:52:11)


和枕 音子> 
『 そう。ラッキーなんだ。...ここで何かの功績を残すことができればあのヒーロー共への一手へとなるからな。』「 カミサマ____らしきものに遭遇して、自分は幸福だと言うようなひと。きっときみぐらいだろうねぇ。」( 返答は返答ではなく。続いた『 超えなきゃいけないんだ。』なんて台詞は、自らの内と言葉を交わしているように聞こえた。高い身長と筋肉から成る広い背中は、こちらに注意を払うことは決してない。隣に並んだって、横に流した視線には興味も警戒も好意も悪意も感じられない。 ぼくときみの間には大きな山があって。それ故に、実力主義極まる少年は当然のようにこちらを視界にはいれない。収める時は、見下ろすしかなかった。たった数度の交流だけれど、いつだって彼はそうだ。そんな分かりやすい価値観のきみに、悪感情を抱けるわけもないのだ。 )( ……あぁ、でも、今日はちょっとだけ違うみたい。) 『 お前も俺のことをほんのちょっぴりは理解出来ているんだろう? 』( すぅっと目を瞬かせて、有無を言わせぬ足取りで前に出たきみをぱちぱち注視する。) 「 …………たった、『 ほんのちょっぴり 』だけれど、ね。」( 何でもない風に呟いた口元が緩んでいること、振り向かないきみには絶対に分からないから。大股数歩で開いてしまった距離を縮めるよう、再びせっせこと足を動かすのだ。)( __________一歩、二歩。ぱたんぱたん。)( 電話機とぼくらの距離、残り10メートル。)   (5/29 23:20:49)


シュガー> 
さて。もう一度。_最初から。話を始めから。そう、あのいくらでもあるような陳腐で、チープで、ありきたりな夏の一日から。___遠くで遠くで蝉が鳴いていた。ギリギリとけたたましい、夏の讃美歌。だが、目を覚ました時に映るのは、土色の青春のグラウンドなんかでも、青空満点の朱夏の絶景なんかでもない。ましてや、涼しい暑さが立ち込めるような庭先なんかでもなかった。あるのはシンプルな作りの白い椅子とテーブル。壁も床も防音加工があるだけで飾りっ気もない白。そこに大量な本棚と、背表紙のみが色とりどりな本たち。どうやら図書館、そう呼ばれる施設らしかった。蝉の声の手前で、低く唸るようなクーラーの音が鳴っている。不健康な冷風は夢と現実の境界さえも曖昧になっていた彼の思考を急速に冷静なものへと書き換えた。「......っ...。」声は出せなかった。それがあまりにも突拍子もなかったものだから。彼の頭は、突如の変化にすぐに対応できる訳でない。景色に対する言及よりも先に始めたのは過去回想であった。___たしか。たしかだ。俺はあの公衆電話に。そうだ、あの公衆電話に近づいた。近づいて、あれが一体どんなものなのかを調べてやろうとした。頭の中でぐるぐると映画のフィルムを一枚一枚確かめるようにコマ送りしていく。彼があの公衆電話を見つけた時の記憶、それからのちょっとした会話。そして近づいて行った時の記憶。最初の方は簡単に思い出せた。あの寝ぼけた、そのくせにどこか何かを見透かしたような彼女との会話なんていうのは短かったから。だが、あの公衆電話に近づいた時の記憶。これがどうもはっきりとはしない。途切れたと言うよりかはめちゃくちゃな記憶だった。一歩一歩近づいたような記憶はあるが、どうも景色の前後が食い違って感ぜられる。たどり着いたような記憶が歩き出した直後にあったり、途中の記憶が入れ替わっていたり。それがあのカミサマの異常性か単なる記憶を勝手に捏造しただけのものなのかは依然として分かりっこはないようだが。「......おい。女っ...?どこかにいるのか?」ふと、なんとなくに名前を知らない彼女のことを呼んでみた。だが、その返事を待たずに彼は驚かされることになった。「...なんだ...?この〝声〟は...?」自分の声がやけに高かった。いや、若かったのだ。声変わりの時は、気にもしなかったしいつのまにか低くなっていたのだから特段に幼い頃の声帯になどは興味がなかった。それが普通というものだろう。だが、その逆というのはなんとも気持ち悪いものだ。あの低くて、威圧的な声がこうも高くなってしまってはなんとなく拍子抜けだ。だが、それを思う暇さえもきっと与えられない。一度その異変に気付けば、そこから芋づる式に気づいてしまうのだ。自身の容姿が幼き頃に戻ってしまっているということに。小さくて、少し焦げた手は隠すこともしない傷だらけ。腕も足も同じ。デコは包帯でぐるぐる巻きで、髪の毛も自身で切ったのか乱雑だ。顔つきこそは幼いが、目つきは現在の彼と同じように鋭くて愛想というものを感じさせない。身長だって縮んでしまって今は150cm程度だ。「...な、な..。」彼は震えた。あまりにも唐突な変化に。そして怒った。あまりにも自身の神経を逆撫でするようなその変化に「な  ん  な  ン  ゛  だ  ァ  ゛  ァ  ゛ ァ  ゛ッ  ッ  ゛  ッ  ゛  !  ?  !  ?」思わず叫んでしまった。図書館だというのに。そして、いつもの癖で机をドンッと、叩いて勢いよく立ちあがろうとする。...したのだが。...それがまた良くなかった。彼はあまりの怒りで周りが見えてなかった。叩いたのが、まさか、自身が使っていたであろう机に平積みされた本の、角の部分だなんて。当然、本は素直に。愚直に。幼い彼の全力を受け止めて。それに答える。本は、彼の胸元へと落ちていく。上から。それはいきなりに立ち上がった、『変わってしまった身長に慣れない彼』をそのままに押し倒すには十分の重量だった。彼は、自分の怒りを自分で清算するように。落ちてきた本たちに飲み込まれる形で、そのまま床に押し倒されるのだった。   (5/30 00:07:21)


和枕音子> 
( _________夏という季節は、ただ、暑いだけのものであった。)( 和枕音子にとって、四季なんてものはそもそも実感がなくって。高校に入るまでろくに外出すら許されぬ身だったのだ、当然ながら夏の風物詩なんてものは一度だって味わったことはない。蝉が煩く鳴いて、日差しがじりじりと焼き付けるから寝苦しくて。たったそれだけ。好きも嫌いもそこにはなく、ニュースや同級生が楽しげに語る夏ってやつを、彼女はどこか夢物語のように聞いていたのである。)( 初めに聞こえたのは蝉の声。騒がしい目覚ましみたいに、遠くのほうで鳴いていた。次に感じたのはひやりと首元を撫でる風。ぶるりと肩を震わせて、ここで身体の感覚がかえってくる。____『 エアコンが強いな。』と、麻痺した思考が言った。そうして最後に、視界が色を取り戻す。モノクロからセピア、セピアからカラーに。数度の瞬きを無意識に行って、そのたびに一色ずつ。 けれど、モノクロだってカラーだって変わりはしなかっただろう。視細胞、視神経、視覚野を通って伝わる目の前の景色は、暮れ始めたオレンジ色でも、ふわりと香る深緑色でもなく、〝 真 っ 白 な 壁 〟であったのだから。)「 っあ、」( 咄嗟に身体を強ばらせたが、周囲に素早く視線をやっては恐る恐る力を抜く。大丈夫。大丈夫。見覚えのある場所じゃあない。だから〝 天井から見張る監視カメラ 〟も、〝 バインダー片手にスイッチを入れる大人 〟も、きっといやしないんだ。薄く薄く、堰き止めていた呼吸を意識的に繰り返す。吸って、吐いて、吸って。大きく肺を膨らませ、そっと吐き出して。高まった鼓動も、ちいさくなる。)( まずは自らの無事を確認。外傷、身体の痛みなどは無し。五感は安定しており、服装や持ち物も変わらずそのまま。椅子にだらりと腰掛けて、目の前には本が開かれたまま置いてあるだけ。至って平穏無事である。第一プロセス完了。)( 次に状況の確認。白い壁、白い天井。高く連なる本棚。白い長机に行儀よく並んで本を捲るひとびと。聞こえるのは蝉の声とエアコンの稼働音、ページに指を這わす音。首をほんの僅かに後ろへまわせば、カウンターに座る職員らしき人間が見えた。 …………総合的に考えて、どうやらここは図書館に近似した施設らしい。第二プロセス完了。)( 次________と、決められたチェックシートを順繰りに埋めて、しかしそこで、大事なことに気が付いてしまう。)「 お砂糖くん、どこ…………………? 」( 直前まで一緒にいたはずの彼が、その目立つ長身が、どこにも見当たらないのだ。平常に落ち着いた動悸が再びペースを上げ始める。どうしてこんな場所にいるのか。記憶の混濁。それに勝る不安と恐怖に、たまらず椅子を蹴飛ばし立ち上がった。)( 同じテーブルには………………………いない。隣にもいない。視界に入る中に、きみを確認することはできない。「 こんなことなら、携帯の番号聞いておくんだった……ッ! 」と声をあげてみたけど、たぶんきみは教えてはくれなかっただろう。逸る鼓動は、冷えきった肌に冷や汗すら浮かばせて________、 )『 な  ん  な  ン  ゛  だ  ァ  ゛  ァ  ゛ ァ  ゛ッ  ッ  ゛  ッ  ゛  !  ?  !  ? 』「 _________________!!!! 」( 聞こえた声、行動は早かった。きゅっとサンダルの音を置き去りにして、怒鳴り声の方向へ走る。) ( 本棚の角を曲がって、そして。) 「 お 砂 糖 く ん ッ ッ !!!!! 」( 書物に潰されるようにして倒れる『 きみ 』を見つけた。きみにとって、荒らげたぼくの声なんて初耳だったろう。タッタッタッと駆け寄って、滑り込むみたいにきみの隣へ膝を付く。重なる本を除けて、退けて、良かったって口にしながら、その〝 異常性 〟に眉を寄せる。)「 …………ちっちゃいね。」「 これも、カミサマの仕業…………かな。」( 周りの視線が背中に突き刺さるも、そんなことを気にしていられる余裕なんてなかった。疑問も次から次へと鎌首を擡げるけれど、それも全部右に寄せた。今は、きみの無事を確認するために、その幼くなってしまった顔を覗き込んで。)   (5/30 01:09:55)


シュガー> 
「......お前は...そのままか。...それともそれが小さいのか...?」小さくなっても中身は同じなのだろう。自身が本に潰されていても、相手と自分の身長が同じくらいになっていても。その何も隠さない物言いは健在のようだ。「全く...。俺を逆上させたいのか...?それとも単にリプレイなのか...?どちらにせよ忌々しいがなッ...!」彼は奥歯を深く噛み締めた。ギリッっと音を鳴らしてしまうほどに。今まで余裕であったが故に見えなかった。彼の真なる負けず嫌いの一面という訳だろう。彼にとってはこの状況が。もっと言えば、この空間そのものが〝嫌悪の対象である〟らしい。彼はその心境を全て発散するかのように本を必死にかき分けて立ちあがろうとした。あれだけ筋肉質だった体も今では、その質量を大きく減らしている。それ故に本から脱出するだけでも一苦労だった。「こんな地を舐めるような真似をッ...するなんてなッ...!」そんな風に喚きながら、這い上がる少年。服装は無地の黒い半袖と同じように黒い半ズボン。それも目立った汚れがあるわけではないが、そこまで新しくもなさそうでくたびれが目立っていた。それに彼が本にぶつかったことでどこかの傷口が開いたのだろう。頭の真っ白な包帯は、少しだけ赤を滲ませていた。小さい体に似合わない傷と幼き顔に影を刺すどこか見窄らしい格好。彼の背格好は子供だ。だが、その眉間に浮かんだ皺や噛み締めるような奥歯はもはや少年のあどけなさなんてどこにもない彼そのものである。彼は焦って駆けつけたであろう彼女に一言だけ、「どこか変わったことはないか。」とだけ聞いた。だが、その声音に心配なんて要素はなかった。ただこの珍妙かつ腹立たしいカミサマに対する対抗の一手を打つため。その復讐のための情報を集める。そう言うための問いである。   (5/30 01:35:12)


和枕 音子> 
( 少年は歯を食いしばりながら、こちらに反応を寄越す。物言いはまったく元のまんま、尊大で気の強い荒々しい口調。彼が立ち上がろうとするのをさりげなく、そして勝手に助けつつ、彼自身に気付かれぬよう細部に視線をやった。背丈はぼくよりほんのちょっと小さい。体格は年頃の男の子らしいもの。服はどこか薄汚れていて、ちらちら覗く包帯の白を目立たせていた。紛うことなき、子供の姿である。変わらぬのは口調と、幼い表情を歪める内面くらいだろうか。ディスコード能力は戻っているのか否か____と。) 『 どこか変わったことはないか。 』「 …………あ、ぼく? 」( 腰をあげるきみを追随するよう、床についていた膝を浮かす。聞き返してから自分以外に人間はいないと思い直し、間抜けな問いを撤回するべくゆるりと首を振った。) 「 えっと、特には。」「 負傷もないし、記憶の混濁も軽度。ディスコードもたぶん、だいじょうぶ。身体だったら…… 」( 「 17歳でも、10歳でもどうせ変わ_____。」 ) ( 一瞬だけ、口を噤んで。 )「 _____うん。」「 ぼくは、17歳のままみたい、だ。」 ( 背筋を伸ばして向き合えば、きみとぼくとの視線はかち合うはずだ。きみの顔がこんなに近くにあるのも、随分と新鮮じゃないか? 思わずまじまじと見てしまいそうになる欲求をどうにか抑える。きみは既にこの〝 カミサマ 〟に対処しようと、思考を切りかえているのだから。) ( あぁ、でも。) 「 …………血。」「 痛くは、ない? 」( つい、と。額に巻かれた包帯に指を伸ばす。滲む赤は、恐らく傷の開いた証であろう。触るなと拒絶されることを、何となく想定して、それでもぼくはきみの傷を気にかけた。 )   (5/30 02:06:09)


シュガー> 
『 …………血。』「...ん?」『 痛くは、ない? 』「あぁ。これか。」気づかなかった。本当に。今まで彼は傷なんて気にして生きてこなかったのだ。いや、手当てやら治療やらは受けるが。それがあまり重大なものにはなり得なかった人生だった。今回の場合もそうである。傷が開いても、血で視界が悪くなるようなこともないし、広げっぱなしの本がダメになったりもしない。なんの迷惑も影響もない。彼の中ではそれは極小の、問題にすらなり得ないものだった。今回もそのようでただ一言に「別に死ぬわけじゃない。」とだけ言っては考え事を続けてしまうのだった。相変わらず彼女とは目を合わせようとはしない。一定の野生動物は他の動物と目を合わせないようにする。それは敵との交戦の合図にならぬよう。威嚇や接戦と捉えられぬようにするためである。彼もまたそのようなものだ。決して彼女に対して臆病になっている訳ではない。ただ、少しでも気を抜けば何かと文句をつけられて、今彼の頭にあるような傷を負うハメになるような長年の過去が彼の目線をそのように仕立て上げてしまったのだ。「...まぁ。ここにいてもどうにもならないかもな。」彼はまだテーブルに残っていた本の表紙を横目で眺めながら指の腹でそっとなぞった。本の内容は、簡単な小学生向けの数学書だった。本当に簡単で、表紙にあるのも数式や文字式ではなく単調な図形やら数字だけのイラストだった。だが、それは今の彼の容姿と比べてあまりにも簡単すぎるくらいだ。彼の見た目は、どう見積もっても中学生手前か小学生後半くらい。明らかに算数の初歩をするには遅すぎる見た目だ。他の本を見ても同じように、国語やら英語やら。挙句の果てには絵本なんかも。なんだかあまりにも年齢層の低そうな本ばかりが彼の周りに散乱していることが分かるだろうか。そして、それを眺める彼の表情が決して心地いいなんてものではないこともまた、分かるだろうか。   (5/30 02:34:15)


和枕 音子> 
( そっ……と。触れるか触れないか、きみの身体を纏い覆う空気の膜をちいさなゆびさきでなぞった。 想像とは正反対に、きみはそれを拒否したりはしなかった。それでも絶対に目は合わなくって、身長が近かろうと変わらないのだなと、何となくほぅと息をついて。『 別に死ぬわけじゃない。』という言葉は疑り深いぼくにも嘘は見えなかったから、それならいいんだと身体を離した。ただし、少年の巻いた包帯に血が滲んでいるとなると周りの目を引くだろう。適当な場所で新しい包帯なんかがあればいいのだけれど。) 『 ...まぁ。ここにいてもどうにもならないかもな。』「 そう、だろうね。何の変哲もない図書館みたいだし、…………それに、随分注目を浴びてしまっている、から。」( 先程から、背中と言わず全身に突き刺さる視線によって針のむしろであったのだ。そろそろ職員も来てしまうんじゃなかろうか。まだここがどういう場であるのかがはっきりしていない以上、下手に他人と関わるのはやめたほうが懸命だろう。) ( とりあえず外に出ようか____。言いかけて、ふと、細くやや荒れた指先が。そのさきが、目に留まった。)「 …………外、出よう。」( 声音は、驚くくらいに無機質な響きだ。感情の伴わない、抑揚に欠けた。 ) ( ここにはいたくないと、おもった。散らばる小児向けの学習書。算数国語英語。中身はきっと、ひらがなだらけで構成された簡単な文章。りんごがいくつだとか、少女がサラダをつくるお話だとか、アルファベットの書き方だとか。イラストの多い教科書とドリル。教えてくれるひとはいないから、何度も何度も読み漁って、何度も何度も赤丸をつけて、でも、結局最後には_____________ ) 「 行こう、お砂糖くん。」( ばちばち光るフラッシュバック。振り切るように、ぼくはきみの腕を引いて。抵抗が無いなら、そのまま図書館の外に足を踏み出すだろう。 )   (5/30 03:06:48)


シュガー> 
図書館の外は夏だった。日光が皮膚を焦がすように降り注いでいる。そしてどこかにあるのは雨の匂いだった。きっとついさっきまで降っていたのだろう。刺すような熱に当てられて急速に乾いていく小さな小さな水溜まりだけが今は跡形もない雨の存在を訴えていた。「...お、おいっ!?随分人のことを子供みたいに扱ってくれるじゃないか。」彼は普段見ないような君のどこ知れぬ、無機質な横顔に少しだけ眼を揺らしていた。君が彼の手を引いた時も外に出てしばらくした後も、何も言わなかったのは、お互いに意見が一致したのもあったがこういう理由があったからである。彼は図書館の病的に冷たかった空気が体隅々から消え失せる頃には君の横顔に向かって、まだ笑顔の似合いそうな顔を歪ませて睨んでいた。だが、すぐさまに彼の瞳や歪んだ目元は今度は緩められ、今度はどこか歯の奥で何かをそっとそっと噛み締めるような不服とした、いつもの表情へと切り替わるのだ。「あまり変に勘繰るんじゃないぞ。俺もお前も人間だ。趣味の悪いカミサマはそう言ったところにつけ込むんだからな。」彼はそれだけ言ってはそれ以上は不問とした。これは別に吊橋効果だとかそんなんなので、変に君に感情を傾けたからではなかった。あくまでもこのカミサマの術中で生存率を上げるため、生き残るための戦略。それでしかない。現に彼は、今の現状を作り出したカミサマのことを〝趣味の悪い〟と形容しておきながら、特段に大きな苛立ちだとか悲観だとかを感じさせることはなかった。もちろん彼の心内ではそうじゃないのかも知れないが、今のところ。彼からはそういう気を感じることは難しい。   (6/17 18:49:10)


和枕 音子> 
( 『 茫然自失 』というのが、今の状態を言い表すに一番近しい言葉だったのではないだろうか。呆気に取られたわけでも、ぼんやりとしていたわけでもないけれど。それでも、我を忘れていたことは事実だった。)『 ...お、おいっ!? 』「 __________、」( だから、きみのその声でようやく、ぼくは図書館から出て門を抜けて、大通りを前にしていることに気付いたのだ。片手に触れる体温は、ぼくのじゃあなくて。)「 ………………、」「 今のきみは、見た目だけなら子供だけれどね。」( 小さな歩幅は本来なら、彼の1歩で追い越されてしまうはずのもの。普段に比べて大きく、速くなっていた歩調を落としてはそんな軽口を叩く。『 あまり変に勘繰るんじゃないぞ。』という台詞に混ざった真意に曖昧な笑みを返して、きみの喉元やら額やらに視線を彷徨わせるだろう。首が痛くなるくらい見上げなきゃ視界にすら入らない顔が、目の前にあるというのは随分落ち着かない事象だった。 )( …………だいじょうぶ。ここは〝 あそこ 〟じゃない。胸中で囁いた言葉の意味を、深くは考えないように。 )「 さ、て。何が起きることもなく外に出られちゃったけど、閉じ込められていると言うわけじゃなさそう……だ、ね。たぶん町の外に出ようとしたら、どこまでも行けちゃうんじゃないかなって、おもう。何となく、だけど。 」( 緩めた足取り。振り払われない手は握ったまま、空いた片手指を歩道に立った看板に向けて。)「 ぼくはこの町の名前にも覚えがない。…………きみは、知っている? 」( 『 ■■町立図書館 』とは、さっきぼくらが出てきた施設の名前のはずだ。 文字列をなぞるよう指先を動かして、きみに問う。その答えは想像がついた。きみだけが小さくなっている理由を考えれば、おのずと分かることだろうから。)   (6/17 19:20:37)


シュガー> 
『今のきみは、見た目だけなら子供だけれどね。』「見た目だけはな。」彼はこの頃に及んでもどこか認めないというか。妙に意地を張ったような発言に感じられるのは彼の見た目が今は子供だからだろうか。だが、きっと彼は他のことに対しても不服そうにするのは何よりも明らかなことであろう。『......たぶん町の外に出ようとしたら、どこまでも行けちゃうんじゃないかなって、おもう。何となく、だけど。 』「だろうな。」手を離すことは頭に無かった。強いて言えば、何が起こるかわからないような現状ではこうしている方が安全、そういう理由だ。君の指が視界の端で色白く光ったのが見えてその指の峰とそこから跳ねるような指の色をなぞっては、その先に目を向けた。その先にあったのは____『ぼくはこの町の名前にも覚えがない。…………きみは、知っている? 』「あぁ知ってるさ。忘れるわけがない。...全く〝素晴らしい〟趣味してるな。」____自身の生まれた町の名前が入った看板だった。君と繋いだ彼のその幼い体には似合わない少々に強い手が、ほんの少しだけ強めに握られた。彼の顔は未だに不機嫌そうだった。それはいつも通りで、彼をそこそこに知っている人ならば見逃してしまうほど平常な顔。だが、その今と見比べればだいぶんに可愛らしく、まだあどけない顔が今の擦れた彼と同じように険しく見えてしまうというのは少なからず彼にとっては苦い思い出があるからだろう。「どうするか。カミサマらしいものもまだ見てはいない。...直感的だがきっとこれは限りなく現実に近い夢なんだろうな。それも、俺の。」彼は言葉を噛み締めながら言った。そしてどこかその噛んだ言葉をどうにかこうにか飲み込むように言葉数ばかりを増やしていく。「とりあえず涼しいところに行くか。...この暑さの中では考えもなかなかにまとまらない。さっきの図書館は...。あんな風に出てきたんだから行けやしないか。お前には何か変なところはないのか?」彼にしては珍しく質問がはっきりしなかった。いや、出来なかった。彼の額の包帯は、徐々に徐々に薄ら赤いシミを広げた。きっと彼が汗をかき始めたからなのだろう。それが暑さだけではなく、動揺という面があるのは君と繋いだ手からも感じれてしまうかもしれないが。   (6/17 19:52:27)


和枕 音子> 
『 あぁ知ってるさ。忘れるわけがない。...全く〝素晴らしい〟趣味してるな。』( 想定していた通りの返答に、薄く息を吐く。) ( 彼の言うように、ここは文字通りの〝 過去 〟であるのだろう。あんなに大きかったきみがここでは10歳やそこらになってしまっている理由も、過去だからで都合がつく。まぼろしだ。恐らくはまぼろしを見せる力なのだ。ぼくたちの肉体は今でもきっと、校門前にあるのだろう。ただの蜃気楼、幻覚にしてはリアリティがありすぎるけれど、タイムリープやタイムトラベルを可能とするカミサマなんて聞いたこともないのだから。)( ここが何であるのか仮説が立ったところで、次に問題となってくるのは帰還方法だ。夢ならば、目覚めれば。幻ならば、醒めれば。それだけでいいはずなのに、それだけが難しい。) ( だって、ぼくたちの意識ははっきりしている。明晰夢と同じように念じれば起きるなんて、そんなこともないだろう? )『 お前には何か変なところはないのか? 』「 ______ぅえっ、 」( 素っ頓狂な声だった。) ( 思索に耽ると周りが見えなくなるのは余り良くない癖であった。彼の言葉は何となく耳に入れてはいたけれど、まさか自分に矛先が向くなんて思っていなかったのだ。ぱちんと思考を止めて、きみを見遣って。)「 変なところ、は、とくに……、」( 言いかけて、少年の肌に、繋いだ手に汗が滲んでいることに気付く。当たり前だ。こんなに暑いの中外でぼんやりしていたら、帰る前に熱中症で死ぬ。さっき指さした看板に再び目を留め、ご都合主義よろしく貼り付けられたマップを確認する。) 「 涼しいところに行きたいよ、ね。……ここらへんなら、そうだな、喫茶店とかショッピングモール…………んん、あんまり人目につきたくない、な。この公園なら、広いから日陰とか、屋根のある場所とかあるだろうけど。」(「 ねぇ、何か良さげなとこ、ある? 」聞いて、けれど緩く首を振る。) 「 どこに行くにせよ、まずはあそこの薬局か、な。」「 血が滲んでちゃ、注目浴びちゃうかもしれないし。」( 包帯に浮かんだ赤色。お金あったかな、なんて呟いて、ぽんぽん自分の身体を探る。財布はあった。パーカーのポケットに入れていなければ無かっただろう、幸いだった。) ( 更に幸いなことに、目に入る位置に薬局はある。きみが異論を唱えないのであれば____唱えたとしても、包帯は買いに走るだろうけれど____無事に買い物を済ませて、公園なり、きみに場所の良い案があればそちらなりに向かうだろう。 )   (6/17 20:32:24)


シュガー> 
『変なところ、は、とくに……、』「...?そうか。」特に探りを入れる気にも、わざわざ君のその曖昧な返事の隙間を問う気にもならなかった。だが、君の表情や視線の全てから何か妙な、変な動揺というか。普段の何とも言い難いような飄々とした雰囲気が感じられない。緊急である。それだけでも理由としては十分ではあったが、彼のように人を疑いそして見透かそうとする人間にとっては、歯がゆい思いであった。今がこういう状況でなければきっと彼はこうも譲歩して、言及せずにいることはなかったのだろう。彼は茹だるようなこの暑さの中、少しだけ錆のような匂いを感じる汗を額の方から垂れ流しながらそっと「...あんまりこういうことは言いたくないんだが、俺の故郷は他人に優しくない。...喫茶だとかショッピングモールだとか。そういう場所は、富裕層どもとそれに半端に楯突く奴らで溢れててきっとこの場所よりも、別の意味で〝お熱い〟ことだろうよ。くだらないがな。」彼は喉奥を、震わせて言った。恨みだろうか、それとも迷いだろうか。とにかく彼もまた、普段ではあり得ない動揺を持っているようだった。彼は、燦々と降りしきる日光にその両目をひどく歪ませながら、「薬局には賛成しよう。そしてその次はひとまず俺の家の方が安全だろう。」と提案したのだった。彼は今だけは君を一人にするつもりも、前みたいに放っておく気もないらしく、きっと君と合わせるように歩くだろうか。それも、彼が今は小さいから歩幅が一緒なのか、意図してなのかすらも怪しいわけだが。少なくとも今こうして君と手を繋いだままに離さないことにはなんらかの意味がある、のかも知れなかった。   (6/25 18:51:51)

※5ロル目 1d100を振り80以上でリトル・グリーン・バックの能力によりカミサマが引き寄せられる

シュガー> 1d100 → (88) = 88  (6/25 19:03:25)
和枕 音子> 1d100 → (30) = 30  (6/25 19:03:49)


和枕 音子> 
『 俺の故郷は他人に優しくない。...喫茶だとかショッピングモールだとか。そういう場所は、富裕層どもとそれに半端に楯突く奴らで溢れててきっとこの場所よりも、別の意味で〝お熱い〟ことだろうよ。』「 …………そっ、か。そういうもの、か。」( 今さっき後にした図書館を見る限りはそんな気配を感じはしなかったけれど、それはいわゆる『 富裕層 』御用達の場所だからなのだろうか? あそこからは〝 余所者 〟を嫌うような、嫌に排他的な空気ばかりが漂っていて、どうにも居心地が悪かった。彼の言葉端から溢れる感情は、どう解釈しても良いものではなくて。繋がれたままの手と言い、何故かぼくの頭をざわつかせる。) ( ぼう、とするのは夏の暑さのせいか。それとも。)(『 薬局には賛成しよう。』ときみは言った。拒否されなかったことに少しだけほっとして、しかし、続いた台詞に思わず瞠目した。)「 きみの家。」( お砂糖くんの、) 「 いや、それはそう、か。だってここはきみの故郷なんだもの、ね。」「…………でも大丈夫なのかな。幻だろうって思ってはいるけれど、タイムパラドックスとか……ほら、何だっけ、過去の自分自身に会うと良くないとか。」( それは半分くらい苦し紛れ。)( 例えこの空間が本当に過去のものだったとしても、当のお砂糖くんは時間軸に応じて縮んでしまっているのだ。その場合〝 未来の彼 〟と〝 過去の彼 〟が同時間軸にいると言うより、成り代わっているとか、そっちの方が辻褄が合うだろう。) ( 「 まぁ、あるわけない、か。」なんてゆるゆる首を振って、ぼくはきみと間近の薬局に足を伸ばす。普段だったらやや小走りになるはずのそれが、今は変わらぬ歩幅であることに違和感をおぼえたりしながら、買い物は無事に終わるはずだ。お砂糖くんの家に行くにしたって、その道中にじろじろ見られることは避けたい。だから先に手当をしよう、とぼくはきみの手を引く。)「 治安が良くないとこって、路地裏とかに不良が溜まっているイメージがあるの、わかるかな……。実際に見たことはない、んだけどね。」( 無言の間を作るのが、何だか気持ち悪くって。ぼくはいつもより饒舌に、薬局脇の細い通りへきみを引いていく。)( ______ところで。今日は珍しくも、ちょっとだけ洒落ていた。変哲のないサンダル履きが、この日に限っては細リボンのついた可愛らしいものだったのだ。意味も嗜好もそこには存在しなかったけれど、少しばかりの気まぐれで。)「 ……っ、と。」( くん、と、足を引っ張られる感覚。足元を見れば、右側のリボンが解けていて。ぼくはきみに繋がれたままの手をするりと離し、その場でしゃがむ。リボンは案外長かったから、踏んだら危ないだろうなんて思った。) ( 靴紐はひとりでにほどけていた。)( 離された手に、しゃがんだ連れに、きみがどう反応したのか少女には見えなかった。目線の先にあるのは指先と地面で、きみの表情や、) ( ましてや頭上から、ミシミシギシリと音がして。)( ____________薬局の分厚い看板が、落 下 し て こ よ う と し て い る、だなんて。) https://eliade20.1web.jp/45954/47641.html#contents   (6/25 20:07:43)


シュガー> 
『…………でも大丈夫なのかな。幻だろうって思ってはいるけれど、タイムパラドックスとか……ほら、何だっけ、過去の自分自身に会うと良くないとか。』「そんなこと気にしていて死んだらどうにもならんだろう。現にそこまでの力があるなら...ヒーロー共にも誰にも止めれないだろうしな。」彼はあっさりとしていた。彼の中には、自分が負けるか勝つか、カミサマを殺せるか、否か。それくらいしか判断基準がないようだった。別にその疑問が変だとかおかしいだとかは言わずに、ただ特になんの意味もなく答えて置いたばかりだ。『治安が良くないとこって、路地裏とかに不良が溜まっているイメージがあるの、わかるかな……。実際に見たことはない、んだけどね。』「治安が良くない...ってのとは違うな。住んでる連中の精神は最低だが、権力だの地位だの金だのが余ってるような奴らが無理矢理に形を整えてるんだ。不良が暴力沙汰なんて起こしたら警察だって動くだろう。汚職にまみれた警察の一番の敵はそういう権力から逸脱しようとするような非行連中なんだろうよ。ここら辺の不良って呼ばれるやつは大方がクーラーの効いたモールや喫茶で鼠講やらなんやら...そういう悪どいことやってる奴らだよ。」彼はそう苦々しく言葉を放っては、鼻で笑うようにして最後に「俺の親には金もなかったがな。」なんて言った始末だった。だがその声や瞳は笑っていなかった。天井にいる蝿を見つめるような、何もなく何もかんじられないものだった。普段より饒舌な君と普段よりも自虐気味な彼。不思議なことに、こういう時でもなんだか少しだけバランスが取れてるようにも思えてきた。薬局の細い通り道も、古い落書きやらゴミはあったが新しそうなものは何一つとしてない。それは清潔さや治安の良さというよりかは、老いた町のような静かさであるようだ。そう。その道はひどく静かだった。_ズリッ...と君の靴が止まる音が聞こえた。思わず隣を見た。その頃には君の手が、自分の手から離れていくのが感じられた。妙に、その行動に惹きつけられた。いや、もっと言えば、その場の空気に奇妙さを感じた。靴紐が解けることなんて、別に大したことではないが。どこかが。何かが。...変だった。「なぁ...」ギリギリッ...ガタンッ...!言葉を遮ったのは金属音だった。大きな大きな金属の板が、自身につけられた固定よりも自重が大きくなって、抜け出そうとする。そんな音だった。「...ッ!?!?」彼は、飛んだ。その両手は彼女の首根っこを。いつか掴んだその場所を今回もまた掴んでいた。彼はその場所から逃げるために飛んだのだ。上は見てなかった。ただ、音から〝何かが降ってくる〟と。判断して。だが。今の彼の体は、あくまでも幼い彼の姿だ。彼がいくら一般的な子供よりも筋肉質であったと言えども、彼女を持ち上げることなんて。到底できるはずがなかった。それに、気づいたのが遅かった。いくら本能的な感覚に秀でた彼でも、落下寸前のものが落ち切る前にできることはせいぜいに限られていた。結果。結果として。彼はまず君を飛んだ勢いのまま低く低く、横に倒すようにして伏せさせ、その金属板を受け止める選択を取ったのだ。金属板、それはどう見積もっても、彼ら二人の体重よりもはるかに重く、さらに落下すればその脅威は下敷きになった子供くらいなら、殺せてしまう。ならば、彼は、そのまま下敷きになって死んでしまうのだろうか。「...イヴレスッッッッ...!!!!」否である。彼も彼女も一般人ではない。一般人には持ち得ない。ディスコードと呼ばれる、特殊な力を有した。カミサマに対する、対抗策なのだから。彼のディスコード、イヴレスは全長は一メートルしかない。普段の彼と比べればその差はあまりにも大きく盾にすらならないようにも思える。だが、現在の小さくなった彼に取っては、体半分を超える大きな岩であった。彼は自身の上ではなく、隣にレイヴスを出現させた。一人では持つことできない金属板を受け止めてもらうために。そして、さらにイヴレスの能力によってその金属板自体をイヴレスに取り込むために。きっとイヴレスによって支えられ、そして即座に吸収される金属板は彼らになんの影響ももたらさないだろう。君を庇うようにして飛んだ彼も、金属板に背中を打ちつけられることもなくただ、飛んだ勢いで地面に少々体をぶつけて先ほどの怪我からツーーっと赤い液体を一筋だけ垂らしている。そして君の隣で横たわる。それだけで済むはずだ。https://eliade20.1web.jp/blog/46838.html#contents   (6/25 21:03:00)


和枕 音子> 
『 ...イヴレスッッッッ...!!!!』( その声に、少女は何もできずにいた。) ( 小さな背丈のきみが、あの日のようにぼくの首根をぐいと引き。きみにとっては〝 意外な程に軽い身体 〟は、力のままに地面を滑る。そこでようやく、ぼくは自身の頭上に迫った金属板を目にしたのだ。) ( 不思議なほどに緩慢な速度で、それが降る。なにもできず、なにも思えず。迫る死から目を逸らすこともなく、ぼくは落ちる影を見つめて________ )「 、ぁ。」( ________1秒後も、ぼくは息をしていた。) ( あと数十センチの距離に迫っていたはずの看板は姿を消し、その代わりにまるで無骨な機械のような、大きな身体が目の前に仁王立っていたのだ。何が起きたのか、たった数秒のことで上手く理解は出来なかったけれど、危機が去ったのは確か。そっと身体を起こして、隣に倒れたきみを見遣る。)「 ……………………………………………………ごめん。油断、してた。」( ただの幻だと高を括っていた。今のがただの偶然による事故であるはずがない。少なからず、カミサマの影響は受けているのだろう。 きみを見つめる瞳は、不気味なほどに硬く、凍っていただろう。謝罪の声は、抑揚に欠けた無機質な声音だったろう。ぼくは怖くなったのだ。) ( 油断していたことに後悔して? ______ちがう。) ( 死にたくないと恐怖したから? ______ちがう。 ) 「 ごめん。」( きみが死ぬんじゃないかって、おもって。) 「 でも、」( 〝 ぼくなんか 〟を庇って、きみが傷つくんじゃないかって。) 「 ……………………ぼくを、庇う必要なんてないんだよ、お砂糖くん。」( 土埃に汚れた服をそのままに、横たわったきみを上から覗き込んで、血が滲む額に指先を添える。額から瞼。瞼から頬。流れた血の筋をなぞって、余韻をのこして。頬に付いた砂をそうっと払って、ぼくは言う。)「 きみと違って、ぼくは、いつか死ぬことが決まった人間なんだから。」「 誰にもその生を望まれちゃいないんだから。 」「 きみが、その身体を、いのちを損なう必要なんか、ないんだ。」( 日差しが差し込まない路地裏は、外界から切り離された ように暗く、静かだった。言葉は一語一句漏らさずに、きみに伝わった。けれどその引きつって凍った表情は、奥に潜んだ恐怖と言う感情は。)「 ごめん、ね。怪我させちゃって。 」 ( きみに、伝わっていなければいいなんて思った。)   (6/25 22:02:08)


シュガー> 
彼の顔を覗き込んで話す君の顔は、人形のようだった。無機質で、不透明で。なんとなく、不安定な声だった。彼は君がしたように、またたっぷりと余韻を残したままに言葉を。普段とは違って、ゆっくりと言葉を吐いた。「俺の命の使い方は、俺が決めるんだ。...お前には、決められるもんじゃじゃない。」そして、君よりかは重くて、でも軽い体をのっそりとのっそりと起き上がらせる。まだ完全に血が止まってないのか、姿勢を変えたらまた血が垂れた。それでも構わなかった。今の彼は、なによりも冷静で静かで。「大体なぁ...!」怒りに燃えていたのだから。「俺はお前と一緒に死ぬ気も、お前を庇う気も。そんな小さな小さな偽善なんか...持ち合わせてはない...ッ!」彼は思わず、君の肩を握った。小さくなった体はすぐに悲鳴をあげる。肩を握ればそこからまた、体の力が抜けそうになるが。それでも、なお立って君を見つめ、言葉を吐いた。「...お前のような人間、俺に取っては死のうが生きようがどうだって良いことだが、俺はお前に生きさせてもらわなくたって生きる。お前を庇って死んだりなんてしない。」彼はそう言ってグッと、指に力を入れた。また一つ足から力が抜ける。「〝怪我をさせた〟ってのはそうだな。認めてやろう。ただな。そんなことは、俺が勝手にやったことだ。」彼はふいと、苦しそうな時も笑いながらにして言うのだ。余裕そうに、傲慢に。「嫌なら、俺に勝ってから言うんだ。我儘ってのはそう言うものだ。」と。   (6/25 22:43:49)


和枕 音子> 
( らしくないことを言ったと思った。口にしてから、その危うさと意味に気がついた。けれど、どうしてそんなことを言ったのかは、よく分からなかった。) ( ゆっくりと身を起こした彼は、その手でぼくの肩を握る。) 「 っ、」( 小さな手とは言え、力の男女差は出るものだ。皮と、肉付きの薄い身体とでは吸収し切れなかった力が、肩甲骨を、肩関節を、僅かに軋ませる。髪の合間から覗いたきみの目は、ちらちらと揺れる怒りの色を宿して。) 『 俺はお前と一緒に死ぬ気も、お前を庇う気も。そんな小さな小さな偽善なんか...持ち合わせてはない...ッ! 』 ( 押し殺した怒鳴り声は、声の大きさに反して鼓膜と脳を揺さぶった。) 『 お前を庇って死んだりなんてしない。』『 嫌なら、俺に勝ってから言うんだ。我儘ってのはそう言うものだ。』( 激情の色は変わらずそこにいるのに、それでもきみは口角を上げて、そんな風に嘯く。血は絶えず、腕は無理に力を込めているのか震えてすらいるのに。それでも。) 「 …………………………………………………………。」「 これ、は。」「 ぼくが今言ったことって、その、きみにとっては『 我儘 』になる、の……? 」 ( 他人のために、誰かのためにと刷り込まれた思考は、当たり前にあの言葉を口にしたわけで。我儘だなんて、ちっとも思ってやしなかったのだ。小さな肩をさらに縮こませて、きみの頬から転がり落ちて行き場を無くした手を胸の前できゅうと握って、)「 死のうが生きようがどうだっていいなら、きみはなんで、ぼくをたすけたの。」「 助けなくていいのに、も。お砂糖くんにとって、わがままになる、の。」( 「 そうだね。」「 ごめんね。」その二言で話は終わりだって言うのに。そんなこと聞かなくったっていいのに。 ) ( まろびでた疑問をしまっておけない愚かなぼくは、不安げにきみを見つめて、小さく問うのだ。)   (6/25 23:24:04)


シュガー> 
『 ぼくが今言ったことって、その、きみにとっては『 我儘 』になる、の……? 』『死のうが生きようがどうだっていいなら、きみはなんで、ぼくをたすけたの。』『助けなくていいのに、も。お砂糖くんにとって、わがままになる、の。』彼は少しも表情を変えなかった。ただ真っ直ぐに君を見据えていた。どれだけ質問しても狼狽えもしない。血は以前出ている。本当ならこの手から力を抜いて寄り掛かりたい。でも。彼は「...お前が死んで俺だけ生き残ったら。俺だけ死んでお前が生き残ったら。それじゃああの最低なヒーロー共と一緒じゃないか...ッ!」プライドだけで膝をつくことすらできない、我儘な男である。「『我儘か?』だって?そうだ。わがままだ。俺はお前は死のうが生きようがどうでもいい。だがな、俺と一緒にいて、俺のために死にましたなんて事されるわけにはいかないんだ...っ。」彼だってまだ若い。自身の中で、揺らぐものがないかと言われればそう言うわけじゃない。だが、それでも「お前が、俺のために。俺のミスや失敗なんかを庇うために死にたいなんて言うなら。そんな我儘を言うなら。俺は絶対に、そうはさせない。」なぜならこれは「それこそが俺の、お前には越えられない「我儘」だからな。俺は俺の儘、お前に従ってもらうさ。」彼はそう言っては、ただ返事を待つその合間にも頭を少しだけ下げて限界の片鱗を見せていたのだった。   (6/26 00:13:36)


和枕 音子> 
( 和枕音子は、誰かの代わりに死ぬことを求められて生まれてきた。) ( その生は誰かの死を見て見ぬふりして得た結果。その死によって誰か見知らぬ者が救われて、抜け殻になったぼくを讃えるだろう。外見も中身も誰かのために作られた、代用品。自分の意思なんて求められず。) ( ……………………そんなの、ごめんだった。) 『 お前が、俺のために。俺のミスや失敗なんかを庇うために死にたいなんて言うなら。そんな我儘を言うなら。俺は絶対に、そうはさせない。』( どうして? ) 『 それこそが俺の、お前には越えられない「我儘」だからな。』「 我儘…………。」( 反芻して、噛み砕いて、)「 お砂糖くん。」( ぐい。) ( 掴まれた肩を振りほどくように、きみの細い腕を引いた。本来ならそんな行為は無駄で、体格と力の差によって、子供のじゃれつきにしかならなかったはず。でも今は。体格は同じ。力だって言うほど変わらない。それに、きみの腕の、手の、膝の力が抜けようとしているの、気付かないほど視野は狭くなかった。だからきっと、引かれた腕に対する抵抗くらい。受け止められるかは怪しいけれど、きみの体勢を崩すくらいは出来るだろうか。) 「 ……お砂糖くん。」( 名前を、きみだけの名を、もう一度小さく口にして。) 「 ぼくが〝 生きたい 〟って願うのも、」( 死なせないとするきみに、死にたくないと頷くのも。) 「 わがままになる、のかな。」「 誰かの代わりに死ぬことを義務付けられたぼくが、生きようとするのは。」( 和枕音子は、死ぬために生まれてきた。) ( ________それでも、生きたいと願っていたのだ。)   (6/26 00:50:02)


シュガー> 
腕を引かれる。それだけで彼の体は最も簡単に君の方へと傾けられた。だが、まだ完全には倒れない。意地とプライド。本当に嫌になるくらいに頑固。それが彼なのだから。この状況でもまだ、彼女に体重を預けることがある種の負けであると思っているのだ。だが、幼い体ではどうしても限界があるようできっと何もしなくてももうちょっとすれば寄りかかってしまうことは君にも彼にも分かっている。『……お砂糖くん。』『ぼくが〝 生きたい 〟って願うのも、』『わがままになる、のかな。』その問いに彼はただ「我儘じゃなければ、死んでるのと変わりない。俺も、お前もな。」とだけ言うのだった。彼の我儘と君の言うわがまま。そこには少しだけの意味の違いがあるのかもしれないし、無いのかもしれない。だが、生きたいと願うのも、全てを見返したいと企むのも。どっちもわがままなことには違いないだろう。そしてそこに彼が君のわがままを否定する理由もないのもまた間違いようのないことだった。「...あ、あぁ...。なんだったか。薬局か。薬局、早く...行くぞ。」それよりも。彼はこの後に及んでもまだ。君の支えを必要とする気はないらしくその体を無理矢理にでも、力の入らない腕で君から離そうとしているのではないか。人に散々わがままと言ったこの男のわがまま以上に、わがままなものも他にはあるまい。   (6/26 01:18:48)


和枕 音子> 
( こちらに寄りかかる寸前、彼は耐えた。弱った身体で耐える必要なんかなかったのに、プライドと気の強さだけで。ふらついた身体を無理に立て直したって、より辛くなるだけだって言うのに。ほんの少しの時間すら、人に頼ることを良しとしない。酷く頑なで、高すぎる自意識を持っていて、世界には自分一人しかいないみたいな口振りで。) ( うわ言のように『 薬局 』と呟いて、きみは一人で立とうとするから。) 「 ____きみって、ちょっとばかだよ、ねぇ。」 ( つい、その力無い肩に。) ( ______自らの額を、寄せてしまった。) 「 きみのわがままを大人しくきくから、さ。」「 ひとつだけ、ぼくのわがままもきいてよ。」 ( きみが離そうとした距離を無理やりに詰めて、額だけをきみと触れ合わせて。ばかだと言ったのを怒ってきみが突き返そうとするなら、何の抵抗もなく、近付いた身体は二、三歩下がるだろうけど。そしたらきっと、ちょっとだけ、悲しい顔を見せるだろうけど。) ( ぼくの小さな声は、静かな路地裏に響く。) 「 頼って、なんて無理なことは言わないけど、ね。お砂糖くん。」「 自分が怪我をしている時くらい、ぼくを顎で使ってくれると…………ぼくはうれしい、な。」( それはただ、疲労の溜まった身体で動こうとするきみを、押し留めたいがための。) ( 生きたいと願うことはわがままで、でも、きみは『 わがままじゃなければ死んでいるのと変わりない 』と言ったから。) ( これはぼくなりの、最初の一歩。 小さな小さな、産声のように。ぼくはきみに、そう、わがままを言うのだ。)   (6/26 01:57:05)


ダーマル/シュガー> 
「俺はカミってやつほどたちの悪いものはないと思っていたが…。」彼は相変わらず眉を顰めていた。子供になろうが、弱っていようが。不機嫌そうに。緩慢と動く口から発せられるのは、「お前のそういう我儘は、それよりも厄介かもしれんな。」なんて言葉。あくまでも上から目線で、言葉を選ばない。誰も寄せ付けないために、誰とも相容れぬために固めてきた冷たい言葉。 だけれども、この時には、この時ばかりは。この灼熱とも言えずとも、茹だるほどに暑く寂しい街中でたった一人、君にだけにしかわからぬように発した素直ではない言葉だった。 「いいか。言っておくが俺はお前に媚びるわけではないからな。お前の我儘が俺の利になる。そう思っただけだ。妙な期待はするんじゃないぞ。」それだけ言って彼は、自分の腕に額を当てる君の肩にそっと腕を回した。君が嫌がらなければ、彼の腕は君の方へとその疲弊した体と共に寄りかかるだろうか。最初は真綿よりも軽く、よそよそしく。それかちょっとだけ時間を空けてから徐々に重く。君の体にかけれるであろう体重を探るように、じっくりと。それはなんだか、ある種の配慮だとか、彼のこういった経験のなさの現れにも思えるほどに丁寧に丁寧に。きっとそれらを指摘してもなんだかんだと言い訳をして認めることがないのが彼の常ではあるのだが。彼は、君のことをガラスでできた杖にも思っているかのように少しずつ、君にその体重を預けた。そうして、数秒だか数分の時間をかけて君と彼の疲弊を分けあった頃に彼は「礼は言わないぞ。さっきの恩を返してらうんだからな。」なんてありふれるほどのごまかしを一つしておくのだった。   (9/3 15:42:15)


和枕 音子> 
( 彼は素直じゃないひとだ。初対面のあの住宅街から、屋上で並び座った昼下がり、そうして日暮の鳴き始めたこの時まで、彼の言葉はひねくれたまんま。それにすっかり慣れてしまった今となっては、むしろ親しみすら感じてしまうのだ。) ( そんなぼくから言わせてもらえば、『 お前のそういう我儘は、それよりも厄介かもしれんな。』と言うきみの台詞は、悪態が一周回っていっそ分かりやすいくらいで。日が落ちると共に下がりつつある気温と、この街特有の白けた空気とのおかげで誰にも聞かれなかったことを、思わず感謝してしまったほど。) 「 妙な期待って…………なぁに、ぼくにきみが恋をしたとか、そういうもの? 」( くす、と笑みは溢れたけれど、自分の声が何だか少しばかり白々しい響きを保っていたものだから目を瞬いてしまった。肩にきみの体温を感じれば、ほんの僅かに肩を竦ませる。突然のことだったからか、はたまた突き放されるだろうかと思ったからか。) ( 額を少年らしい細い肩口へ控えめに触れさせたぼくは、正直なところ、少し怖かったのだろう。きみへ触れること。〝 自分 〟を晒すこと。誰しも初めての一歩は怖いものだ、ぼくだって例外じゃあない。拒絶されたら、なんて思考は諦観が満ち満ちた胸中にもじわりと広がっていた。覚悟をするように、く、と瞼を閉じて、) 「 ………………? 」( ──────あぁ、しかし。想定していた喪失は訪れない。代わりに与えられたのは変わらぬ体温と、徐々に重くなるきみの体重。最初は触れるか触れないかの程度、だんだん込められる力は、まるで此方を探るような。子供らしい肉体で、不器用な気遣いを彼はしていた。『 怪我をしている時くらい、ぼくを顎で使ってくれるとうれしい。』とは、自らが口にした初めてのわがままであり、きみへの甘えであったのだと、この時になってようやくぼくは理解した。) 『 礼は言わないぞ。さっきの恩を返してもらうんだからな。』「 分かっている、よ。ぼく、きみには、借りがいっぱいだもの。」( 傍から見れば抱き合ってるようにすら見えるその時間は不思議なことに、たった数秒が数分に感じられていた。行き場のなくなった手を、片方だけきみの服の裾に伸ばして、ぼくは至って何でもない風に口にするのだ。) ( ………………ただ。きみの杖になっている時間中、ぼくの歪な心臓はいつもより早いリズムを刻んでいた。理由はよく分からない。でも、きみにバレなければいいなぁと。暑さにやられたのかふわふわ揺らぐ頭で、そっと呼吸を薄くしてみたりしていた。 )   (9/3 16:33:49)


ダーマル/シュガー> 
彼女は不思議な人間だ。『妙な期待って…………なぁに、ぼくにきみが恋をしたとか、そういうもの? 』だなんてことを言う。彼はこのシンプルな言葉を返すのに少しだけ迷いというものを生じすにはいられなかった。「くだらない。」それだけを不自然ではない程度の間の後に返すのが精々であった。淡い恋心だとか、そういうものにではない。ただ日暮の声の間に小さな笑いを含ませた今は同じ背丈の彼女を、その短い一言で返すにはあまりにも情が湧いてしまったように思われた。体重をかけるまでのその不安げな顔と閉じられた瞼。頼れなんて言ったがそれにしたってはか細い体。何を怖がっているかは理解できなかったが、何かに怖がっていることは理解できるその様子は、彼に先ほどの冗談めいた口調が彼女自身に対する紛らわしであることを悟らせた。覚悟もガタイも人一倍とは言い切れぬそんな彼女の姿はなによりもいじらしい。彼は自身の体重が彼女へと移りゆくその最中に、先ほどの彼女というのは〝カミよりも厄介である〟といった言葉を反芻していた。そうこうして、気づけば図書館にいた頃よりも長いかもしれなほどの時間が路地で経過した。厄介なほどに頑固な性格では、人の肩を借りるだけで時間をかけてしまうのだから。彼は君の肩を借りた後に「とりあえず、薬局に行くぞ。包帯もそうだが、これ以上ここでいたら干からびてしまう。」と言っては君の肩を借りているというのに威勢は変わらず、歩くことを試みるのだった。   (9/3 17:07:59)


和枕 音子> 
( とくんとくんと胸の奥で鳴る音が、やや落ち着いた頃。ようやっと、彼の身体が離れた。それに得体の知れない名残惜しさを覚えたことを、意図的に認識しないように、滲ませないように、姿勢を変えながら『 薬局に行くぞ。』と言うきみを横目で見る。薬局くらい、一人で行けるのに。動くことが辛いなら、待っていればいいのに。誰かに頼ったり指示したりをせず、何でも自分でやってしまう様は、普段の傲慢さとはほど遠いものであるように思えて仕方がないのだった。) ( 〝 ──────そう、例えば、『 頼り方を知らない 』みたいな…………。〟 )( そんなことを言ったら、きみは貸した肩を振り払ってしまうだろうから黙ったままで。せっかく、ちょっとだけでもきみの役に立てているのに、それをつつくのは不粋ってものだ。) 「 今ばかりは、きみの背丈がぼくと同じくらいになっていて、良かったと思うよ。いつもの身長だったら、べしゃりと潰されて終わりだもの、ね。」( まぁ、そもそも子供になんてならなかったら、落ちてくる看板からぼくを守って怪我なんかしなかったのだろうけど。) 
( 慣れない重さに四苦八苦しつつ、ぼくはきみを引いて──正しくは、先に進もうとするきみに引かれてだが──隣の薬局へ向かった。相当大きな音を立てて看板が落ちたはずなのに、通りでは一切の騒ぎは起こっておらず。どうにも不気味であるのだった。) ( 自動ドアは静かに開き、顔面に吹き付けたのはクーラーによる冷気。店内を覗いても人の気配は無かったことを幸いと、棚の間をよたよた練り歩いては包帯とガーゼ、消毒液などを手に取った。包帯だけでいいときみが異論を唱えたとしても、ぼくは相槌を残して知らん振りしたことだろう。 レジに立っていたのはいかにもやる気無さげな男性。地面を滑ったことで若干薄汚れた子供二人を怪訝そうに見やったのも一瞬で、関わり合いになりたくないのか、すぐに仕事へ戻っていく。問題なく買い物を終えれば、片側にレジ袋、片側にきみを連れたって再び地獄のような暑さに身を曝すのだ。) 「 …………手当したいけど、してるうちに次は熱中症になりそうだ、ね。これ。」( 店内で見た時計はぴったり18時を指していた。暮れ始めた太陽はやがて地平線の向こうへ姿を消すだろうが、その前に地面に伏すのはぼくらだろう。もっと言うとお砂糖くんだろう。190センチの身体と、150センチの身体では暑さの感じ方はまるきり違っている。何せ熱を放つコンクリートがすぐ近くにあるのだから。) ( ぐぐ、と眉を寄せながら、ぼくは当の本人へ「 どうする、きみのおうちってここから近い? 」と問いを投げた。 )   (9/3 17:57:31)


ダーマル/シュガー> 
そこからは早かった。停滞していたからだろうか薬局でものを買って出てくる。そのなんでもないような行為もいつもよりも忙しなく感じていた。それはただの気のせいというよりか、彼が小さくなったことで物事のスケールというもの自体が大きくなってしまったから、と理由づける方が早い。店内で「包帯だけで良い。」と断ったはずなのに消毒液を知らない間に買っていた時はいつもよりも眉を歪めずにはいられなかったが、妙に小競り合いになって店員に目をつけられるのも無駄な時間を過ごすのも彼としては受け入れ難く黙認することとなっていた。君という人間はやはり不思議である。あんなにも怖がっている素振りを見せていたというのにも関わらず、今度は彼の意見を何食わぬ顔で押し切ったのだ。その二面性に彼はどうも弱いというか、対応できないようで割れ物の如く扱うべきか肝が据わっている人間だとしてもっとぶっきらに扱って良いものか時折にして悩むのであった。彼の、本来ならば流されず、我の儘を押し通す彼の心が、である。さて、そんな和気藹々とは程遠い、されど気の緩むような時の先に待っていたのはやはり衰えぬ炎天であった。 「 …………手当したいけど、してるうちに次は熱中症になりそうだ、ね。これ。」と君は言った。そこに続くようにして彼が「あぁ。」とだけ短く返した。その上の空の返事は疲労によるものか、それともさらにここからどうするかを考え込んでいるからなのか。ただ、彼からなんらかの発言がもたらされることはなかった。ただ目を動かしては回り切らない頭で考えているようであった。 「どうする、きみのおうちってここから近い? 」しかし、その沈黙は彼からではなく君からの質問によって砕かれる。彼はその質問を聞いては何度か目玉を回して考えた後に、「近くにある。ここから15はかからないだろう。」と言った。そして、続け様に「とりあえずそっちを目指すか。どうせ、俺以外に人がいるわけでもない。」と独り言のように言った。どうやら君が尋ねたその時点で彼は自身の家へと向かうことに決めてしまったようだった。彼はほんの少し、また間を開ける。しかし、今度は考えているというよりも、歯をほんの強く噛み締めて迷っているようだった。沈黙というには短く、会話の間よりは長い間、彼は悩んだ。そしてついには君がその不自然に黙りこくった彼に何かを言おうとする前に「お前は、歩けるか?ここでお前に欠けられたら都合が悪い。」と、彼なりに心配、というものを一つしてみるのであった。   (9/3 19:00:51)


和枕 音子> 
( ところで今は、8月だろうか、7月だろうか。そんな他愛のない疑問が頭をよぎる。7月であれば完全に日が落ちるのは19時前後、8月になれば18時前に落ちることもあるだろう。ぼくらを茹であげんとする日差しがあとどれくらいでなりを潜めるのか、月日から読み取ろうとでも思ったのだが、生憎周りに電光掲示板やカレンダーの姿は無いのである。ここから15分も掛からない場所にきみの自宅があるのならば、恐らくぼくたちが目的地へ到達する方が速いはずだった。) ( どこか上の空めいた口振りで相槌をうった彼は、そのままの調子で言葉を綴る。『 俺以外に人がいるわけでもない。』と言うのは、一人暮らしということだろうか。12、3歳の子が? 疑問とは、一度浮かび上がると次から次へと主張を始めるものと相場が決まっている。図書館で彼の前に広がっていたドリルや教科書たち、くたびれの見える服に、決して真新しくはない包帯。彼の教えてくれたこの街の在り方と、人の視線に込められた疎外の滲む敵意。) ( ずっと、不思議に思っていたこと。) ( ──────────『 ヒーローが憎い 』と言うのなら、どうしてきみはヒーローになろうとしているの? ) ( 喉元までせり上げたそれは、きっと、ただきみのことが知りたいというだけの。) 『 お前は、』( ごくり。間一髪のところで、ぼくは余計な疑問の欠片たちを飲み込んだ。) 『 歩けるか?ここでお前に欠けられたら都合が悪い。』( ぼくが好奇心と知識欲の中で揺蕩っている間、きみは不可解そうに黙りこくっていて、そうして落とされたのがそんな言葉であった。めずらしい、と。ゆるり、ぼくは小首を傾ける。結った灰桃色がきみの手に、ぼくの肩に掛かっては音もなく落ちていく。) 「 ぼ、くは、」( 少しだけ声が上擦って、咳払いをひとつかふたつ。)「 ぼくは、別に。だいじょうぶだよ。」「 一応これでも、ちゃんとみんなと同じカリキュラムをこなしているから、ね? …………眠気さえなければ、特に問題はないんだ、よ。 」( その眠気も、薬を飲んだのは2時間ほど前にも関わらず綺麗さっぱりである。つまりは元気はつらつ。暑さによって多少コンディションが落ち込んではいるけれど。呟くように答え、こちらもまた沈黙を少々。ちょっとだけ悩んで、ちらり、少年に視線を投げる。)「 ………………、……ありがとう、ね。お砂糖くん。」( 蜂蜜色に揺らぐ瞳の奥。きみの言葉は意外なほど分かりやすいのに、きみの表情は随分と内心を隠すのに長けているらしかった。今の疑問符が心配であることは分かったのに、どうして心配したかは1ミリだって分かりやしないんだもの。)   (9/3 19:47:36)


ダーマル/シュガー> 
『ぼくは、別に。だいじょうぶだよ。』『 一応これでも、ちゃんとみんなと同じカリキュラムをこなしているから、ね? …………眠気さえなければ、特に問題はないんだ、よ。 』「そうか。なら歩けるな。」気まずかった。慣れないことをするものではないのだと心から痛み入る。君の沈黙もまた同じ。妙に心配してしまっていることになんとも言えない違和感を感じているのかそれとも単に話題に困っているのか。どちらかどうかは彼からで走るよしがないのがまた、苦しかった。彼女の桃色の髪の毛や自分と似た色の、それでも自分のものよりも輝いて見える琥珀色の瞳は目に余るほどにわかるが、彼女の気心が知れないのがなんとも居心地の悪い。そんなことを気にしている己のこともなんだか似合わないと思えてきてまた、妙な気持ちであった。「 ………………、……ありがとう、ね。お砂糖くん。」そんな言葉にも彼は「礼を言われる筋合いはない。無理に移動して怪我でもされたらそれこそ致命的だ。」なんて誤魔化しと合理で埋め尽くした言葉を返してしまうのであった。彼はそれ以上この二人の間に確かに存在した、歯切れの悪い空気感を断ち切るように「よし。」と低く唸るように言ってから「じゃあ、歩くぞ。事は早いに限る。」と言い出しては彼の家への道を歩もうとするのであった。幸いして、彼の家までは特段の坂道だとか舗装されてない道だとかはなかった。むしろ、寒々しいほどまでに静かな路地と、確かに小綺麗な道だのに道ゆく人間からは余裕だとか、温かみだとかを感じない。そんな街並みが二人の周りに広がっているのみである。薄暗い路地と人の少ない大きな道。そこに歩くのはあまりにも頼りない少しだけ汚れた服を着る二人の小さい人間だけだろうか。日暮だけが街に声を落とし、賑わいを持たせているがその実この町というのは小綺麗な廃墟とあまりに違いがなかった。   (9/3 20:38:34)


和枕 音子> 
( 『 礼を言われる筋合いはない。』と、きみは相も変わらずぶっきらぼうだ。普段通りに冷たいとすら言える態度にも、ほうっと、安堵らしい何かを覚えてしまうのだから我ながら困ったものである。低く、地を這うような唸りを発したきみには仏頂面とか傲慢に胸を張った姿とか、そういうのがやっぱり似合っているから、ぼくはきみに心配をかけないようにしたいと。背中を預けられような、なんておこがましく無作法なことは望まないから、もし、きみがよろけてしまった時、それに誰も気が付かなかった時、大きな背中を押さえてあげられればと。彼の示す方へ足を進めながら、ふと思うのであった。) ( ……………………この感情は果たして、何と名付けるべきなのか。それだけは、いつまで経ったって不透明なままだけれど。 )「 …………ひと、すくない、ねぇ。」( 呟きの通り、ぼくの声を耳にする者は隣のお砂糖くんと、1人2人すれ違った街の人間とだけ。数少ない住人に至っては、死んだような顔で斜め下を見つめながら歩いていくから、きっとぼくらの小さな姿形なんか目にも留まっていないのだろう。道端に雑草の少しすら生えておらず、野良猫は薄暗い路地裏から出てこようとしない。2人を挟む住宅たちは白白しい明かりが漏れてはいたが、そこに生活感や団欒の気配なんかは存在しないみたいで。) ( それは、異様な空気であったろう。まるで、この世界に生きている者はぼくらだけだと言わんばかりじゃあないか。 ) ( ──────────── 一瞬。研究所の真っ白けな廊下と、こちらを見下ろす鉱石に似た無数の目がフラッシュバックして、微妙に空いたきみとぼくとの距離をさりげなく詰めた。肩が、服の裾が僅かに触れる。)( お砂糖くんの家まで行く道のりは平坦で、音がなくて。もう数分歩めば到着するであろう旅路が永遠に続く気さえして、それ故にこの沈黙に耐えられなかった。「 き、みは、さ。」掠れた喉を聞かないふりして、きみの顔を見ないふりして、張り詰めそうになる吐息を隠しながら口を開く。 ) 「 …………どうして、ヒーローになろうと思った、の。」( 選ばれた問いは、さっき一度捨てられたそれ。出来うる限り雑談に聞こえるように、好奇心からの問いかけであると思われるように、表情とは裏腹に声だけは明るさを保って。 )   (9/3 21:24:42)


ダーマル/シュガー> 
「 …………ひと、すくない、ねぇ。」「まぁな。」彼は短くしか答えなかった。そこに何かの感情を感じられないほどに冷静であった。意図しての冷静さか、それともそこには本当に語るにも値しないのか。やはり彼は、表情やら感情を隠すということを意図せずにもできてしまうらしかった。彼の時折吐く深い息と、足音。それと彼女の体温。五月蝿いはずの日暮の声は頭が遠く遠くに追いやって気にはならなかった。二人が進む、小綺麗で、何もない道。知りきってる、見飽きた、されどどこか違和感を感じてしまう道。そんな道では恐怖こそ感じないが不安ではあった。心なしか君と彼。その肩と肩が触れる程度に近づけられたのは偶然であろうか。「 …………どうして、ヒーローになろうと思った、の。」いきなりであった。本当にいきなり、そのようなことを尋ねられた。その声は高くて、楽しげで。されど、彼の耳には一際、はちきれんばかりの何かがあるように感ぜられた。彼が普段から他者を疑っているがために身についてしまった観察であった。だから、彼もこの質問を、普段ならば教えるはずもなく一蹴するところであったが今ここでそれをできるほど彼も無粋な人間でもなかった。いいや、実のところはそんな事はどうでもいいのかも知れない。粋だとか損なのではなくて彼女だからどこか話してもいいように思われたのかも知れなかった。「俺は…そうだな。」おもおもしく口を開く、されど決して止まることもしない。彼は続ける。「俺は別にヒーローになりたいわけじゃない。あの屑どもと一緒にいるのも御免だ。正義だとかにも興味がない。」「…ただ。あの屑どもがいなくれば……本当に認めたくもないが……カミサマはどうしようもなくなる。」「ならばだ。まずはヒーローどもの仕事を終わらせるしかない。あいつらを必ず〝支配〟すると決めた以上。俺はあいつらに頼るわけにもいかないからな。」と。今の彼は比較的冷静な語り口調であった。激昂もしないし、変にネガティヴなわけでもない。ただただ冷静に、自身がヒーローにはなりたくてなっているんじゃないこと。その上で、ヒーローを越え、支配するためにはヒーローの仕事をヒーローに頼らないでできなければ敵わない。彼はそう考えているようであった。   (9/3 23:24:05)


和枕 音子> 
( 短い返答に異を唱えたり、不満の眼差しを向けることはなかった。何故ならば、無意識で彼との距離を近付けていたことに、肩がとんと当たってようやく気付いたからだった。沈黙に耐えかねた故に口にした感想であったし、元から深い応答を望んでいたわけではなかったからだった。) ( 『 そうだな。』と、思案を覗かせたきみを見上げることは、真意に気付かれてしまいそうで控えてしまう。前を見るでもなく、さりとて俯くでもなく、右斜めの道脇を囲う塀の穴なんかをぼうっと見て、ぼくはきみの言葉を待った。) 『 俺は別にヒーローになりたいわけじゃない。』( しばし後。重さの増えた声で、しかしつっかえることもない滑らかな響きで、彼は語り出した。) 『 あの屑どもがいなくればカミサマはどうしようもなくなる。』 『 あいつらを必ず〝支配〟すると決めた以上。俺はあいつらに頼るわけにもいかないからな。』 ( 訥々と口を開くきみを右肩に感じながら、ぼくは邪魔をしないようゆっっくりと息を吐いていた。) ( …………正直なところ、意外だったのだ。『 お前は俺に名前を〝話させる〟だけの何かを持っているのか? 』──────と、お砂糖くんは以前、そう言ってぼくを拒んだ。ぼくが彼を愛称で呼ぶのは愛情や友情の現れなんかではなく、ただ、〝 名前を知らない 〟からである。もちろん、ぼくにはきみに何かをさせるための手札も与えられる報酬も、持っていないと分かっていて。だからこそ、今、きみが不快を顔に出さず、ぼくの疑問に答えてくれていることが驚きであり、むしろ違和感ですらあったのだ。)「 …………意外だ、なぁ。答えてくれるなんて、思っていなかった、から。」( それは、意図せず言葉となって口から漏れる。) 「 でも、そうか。普段のきみは、何でも出来て当然、当たり前、努力などしていません……って顔をしているけど、」「 ──────────やっぱり、随分と努力家なんだ、ねぇ。」( 〝 努力 〟と言う単語に篭る感情は決して良いものとは言えなかったけれど、それでも全体を見れば、穏やかで、とろりと蕩ける蜂蜜のような声音であったろう。) ( 努力家、もしくは負けず嫌い。ひねくれた反骨精神の塊。そういうもの全てを〝 自分のため 〟と言うだろうきみが、きみのことが。) 「 すごいね、お砂糖くんは。…………ぼくとは、大違い。」( 尊敬と一方的な信頼と、よく分からないあたたかさとで胸中が掻き乱され、ぎゅうと心臓が締め付けられるから。)( ──────────────いっそのこと、憎らしく思えたなら良かったのに、なんておもうのだった。)   (9/4 00:13:42)


ダーマル/シュガー> 
「 …………意外だ、なぁ。答えてくれるなんて、思っていなかった、から。」「気が乗っただけだ。」彼は特に理由を述べることはしなかった。というよりかはなんと言っていいかわからなかった、という方が正しいのだろうけど。「 でも、そうか。普段のきみは、何でも出来て当然、当たり前、努力などしていません……って顔をしているけど、」「 ──────────やっぱり、随分と努力家なんだ、ねぇ。」君は呑気に、されど滲むような淡い淡い感情をその背後に忍ばせていうのだ。だが、その言葉を彼は「興味もないがな。俺にできることだけだ。」容易に切り捨ててしまうのだった。彼は決して君の気持ちを知っていても、知らなくても。それがどんなに弛まぬ努力だろうと、それも全て『自分の能力』という一言に収める以上にしようとはしなかった。彼のような人間が、君のような人間にとってどれほど痛ましくあるのか、どれほど悩ましくあるのか。そんなことを考えれるには彼はまだまだ若すぎるのだ。君のその切ない思いを汲み取れたなら、そのような力が彼にあったら。彼は今のような反骨精神と疑心で武装した人間になんてならなかったのかも知れない。「 すごいね、お砂糖くんは。…………ぼくとは、大違い。」「だろうな。俺とお前は別人だ。比べたって、どうにもならない。」彼の口から出るのはそんな冷酷な事実である。恨んでしまうことも、嫌うこともできない卑怯な事実。彼はそんなことしか言えなかった。そして、今まさに感傷しているだろうという君にかける言葉もまた彼にはいまだになかった。君の切ない思いも、行動も。まだ彼に咀嚼するには早すぎるものななおかも知れない。彼に家まではもうそこまではない。短くて静かなこの何もない道と別れるのももう少しであった。   (9/4 00:54:08)