飯田玖諾

イドラ・フウワ

飯田 玖諾> 
(午前授業の後に設けられた長めの休憩時間。まだまだ青春花盛りの学生たちは、午後に向けて憩いの時間を謳歌する。昼時ということもあり購買周辺は特別に賑わいを見せていた。)「────────。」(自販機の前に佇む藤色の髪の女は、財布を取り出すでもなく其処から立ち退くでもなく、ただ向かい合っていた。一分、二分──といつまで立っても、途中で気まずそうに隣の台でイチゴオレを買っていく女子二人組が訪れても、何をするでもなく仁王立ちをしているだけである。表情も変わらぬ中、動かしているのは目線だけ。りんごジュース、炭酸水、ジャンクフードに良く合う人気者、エナジードリンクに謎のドリンク────ワンコインからちょっとお高め陳列した飲み物たちを左上から順番に見るのを何度も繰り返す。そんな奇っ怪な現場に訪れた貴方は、同じく此処に用があったのかもしれないし、はたまた通りがかっただけかもしれない。貴方が此方に近寄ってきたとしても、姿を一瞥するだけで声も掛けずにまた箱とにらめっこを再開するだろう。)   (6/19 12:42:31)


エレナ・ドラグノフ> 
学校の自販機でコーラを買った。ガタン、という音と共にそれを取り出して、そろそろ無視できなくなった異常に目配せをする。え、と……。なんだコレ。何かを買うわけでもなく、誰かを待つようにも見えず。強いて言ったら警備とか監視員に見える。あるいは、神社とかの狛犬。微動だにしないままに、自販機の前に居座る生徒というのは、多分夕方や夜ならなんらかの怪奇現象でしかない。『……おい。』沈黙に困り果てて、おい、と声をかけた。聞きたいことはいくつもあるが『その……なんだ。何か買いたいなら邪魔はしないし、選んでるんなら仕方ないだろうけどさ。』『そんなに堂々と自販機の目の前から動かないのは、ちなみになんでなんだ______?』何してるんだコイツ?というその一点_____『仮に誰かを待つなら、もう少し離れてもバチは当たらないんじゃないかと思うんだが……』自販機の前で待てと言われて、そのまま前で待っている姿を想像したら一種のコント。けれど、まあ他にありそうな理由も見つからないのがどういうコト___?   (6/19 12:52:37)


飯田 玖諾> 
(この状況に臆することなく打破を選んだ英雄は、どこか大人びた黒髪の女性……と思われる格好と声。随分と身長が高く、彫りのはっきりとした顔立ちが相まってちょっと威圧的な印象を受ける。『そんなに堂々と自販機の目の前から動かないのは、ちなみになんでなんだ______?』)「────水筒を忘れたから。自販機で買えばいいって言われて来た。けど」「どれを買えばいいか、聞いてない」(普遍的なトーンで、抑揚控え目の声で告げる。呆れただろうか?しかし嘘も言っていなければ当の本人は至って真面目だ。出来の悪いアンドロイドのようなものだ、『何を買えばいいか』まで明言されないと、自分では選べない。──暫く貴方の顔をじいっと見ていた飯田だったが、俄に体を貴方の方へと向けて、腕を片方突き出す。真っ直ぐと指差す先は、番犬が睨んでいた自販機だった。)「ねえ。どれを買えばいいか、決めて」(先程まで自販機に向けていたのと同じように微塵とも貴方から逸らさぬ視線は、凡そ『お願い』に相応しいとは呼べない。それどころか、脅迫にも似た一種の圧を孕んだものであった。)   (6/19 13:21:51)

飯田 玖諾> 
(────飯田玖諾は想定外を嫌う。)(今日も特に変わり映えのない朝から始まった。うっかり忘れていた課題を内職で終わらせ、購買で買った昼御飯の後に寝惚け眼を擦っていれば、スケジュール通りの授業が終わる。ただ一つ枠組みから外れていたのは、文字通り雲行きの怪しい空だった。どんよりとした重い鉛のような雲は生徒の解散を待たずして大粒の雨を降らせる。)「あっ」(頬杖をつきながら、飯田の視線は窓枠に釘付けになる。融通のきかない夕立の訪れに、周りの皆の声が心なしか大きくなる。『やべ、傘持ってねぇや……』『しょうがない、購買に走るか』『早く終われよーっ!』)「…………ありがとうございました」(終礼を終えて、男子を先頭に十人程度が早足に教室を抜け出す。騒音が階段を降りて校外に出ていく頃、飯田は漸く鞄を背負って生徒玄関に歩きだした。こういう通り雨はだいたい待っていれば……長くても数時間で止んでくれる筈。それに、待っているだけなら一番『何もしなくていい』から。) (庇の下で凭れる藤色の髪の女は、音楽を聞くでもなく、スマホを片手に噛りつくでもなく、雨に景色が染みていくのを、名前も知らぬ顔見知りや見ず知らずが靴底を濡らしながら帰路につくのを、ただ延々と眺めている。きっと貴方が帰ろうと玄関から出たのなら、その姿は一瞬でも目に留まるのではないだろうか。それは傘を忘れ困り果てた姿にも見えるだろうけれど、余程のお人好しでもない限りそれは何か迎えを待つただの生徒の姿だろう。…………足を留めたのなら、彼女も貴方のことをじいっと見つめる筈だ。)   (6/29 23:00:25)


蕪木 千歳> 
( 雨の日は。…雨の日は、なんだったっけ。少し遠くの窓の向こうでは、どんよりと濁った空から雨が降り出していた。丁寧にノートを取る手を止めて、ふとぼんやりと考えたのは授業中のこと────。 ──降り出した雨は帰りまで止むことはなかった。雨の日は、水溜まりが出来る日。雨音の帰り道、廃バス停の水溜まりにもうなくなったバスのカミサマが走る日だった。だから私は、いつもより早く学校を出ることを決めて、帰宅したり部活に向かう友達に手を振りながら荷物を纏めた。早くとは言っても普段よりというだけで、流石に飛び出していったと言うほどではないから、廊下に人影は無いに等しく。雨音ばかりが響く廊下を歩き辿り着いた昇降口にも、人影は1つ。『 ぁ、……………えと、くだくちゃん、 』それが今日教室で見た人と同じだったものだから、私は少しだけ面食らう。けれど、記憶の中のページをパラパラと捲って、飯田 玖諾ちゃん、クラスメートの名前を引っ張り出したのだった。見詰めれば、見詰め返される。落ち着かない羞恥心に、思わずはにかむ。……帰らないのだろうか。それとも、帰れないのだろうか。教室でも何人かが、傘がないと話していたものだから。運か備えの良いことに、私は折り畳み傘なら持っていて。いやでも、人待ちだったら申し訳ない。クラスでも多分そんなに話したこともないわけだし…。でも、なぁ……。『 あー……えぇと…、………傘、持ってる? あの、その、もしかして、傘が無いから、止むの待ってるのかなーとかって、その、思ったりしちゃって、…私も折り畳み傘、1個しか無いんだけど…………。 』どうせ忘れてしまうことだとしても、このまま帰ったら気になって落ち着かない気がした。目が合ってしまったし、声もかけてしまったし。)   (6/29 23:37:20)


飯田 玖諾> 
(夕暮れの最後の、消え入るような終わりの色の瞳が、明日の記憶にも残らないような映像を映している。雨粒は地面に弾けて散って、波紋も広がらずに地面と同化していく。それに重なるように、またはすり抜けていくように、小さな綿のような異変も降り注いでいる。ノイズと呼ぶにはあまりにも綺麗な、けれど人を惚れさせるようなものでもない雨音の中で、貴方の声が心地よく割って入った。『くだくちゃん』と己を呼んだ張本人に、飯田もまた貴方の名前を知識の海から探し出す。)「──蕪木さん」(何となく馴染みと覚えのある顔が段々記憶を引っ張りあげていって、飯田は貴方の存在を無事に思い出せたようだった。はにかむ少女の髪はこの鬱陶しい湿り気の中でも艶やかで、それでいて一切の湿った嫌な雰囲気がない。気休め程度だけれど、貴方のお陰で心の何処かが晴れやかになった。その筈なのに顔色一つ変えない彼女は、『与えられた質問に答える』。)  「傘は持ってない。通り雨だろうから、止むまで待ってようと思った」(人通りは変わらず少ない。恐らく背面の職員室から出てきたであろう足音が階段を一度昇ってそれっきりだ。……少しだけ、貴方の言葉を頭の中でほどいてから、態とらしく大きな瞬きをする。先程の言葉がまるで、『傘がないのなら一緒に入ろうよ』と言わんばかりの口振りに聞こえたから。凭れていた姿勢から徐に前屈して歩を進める。ちょっと躊躇って半歩下がりそうな距離になっても、もう一歩。都度、視線は上向きになる。自由を呪っているから、自身を縛る免罪符には滅法がめつい。)「ワタシに、傘に入って欲しいの?」(色づいたレンズの隔ての向こうにある黒い瞳を覗き込む。『傘に入ることを望まれている』という結論は、気遣いに対して抱くべき正しい感情や思考では決してない。貴方の性格を鑑みても、教室で見ていたやり取りの記憶の断片たちに尋ねてみても、迫られたところで貴方が困ってしまうことは頭の隅で理解していた。表情も、伸ばした背筋もまるで変わらない。声色にのみ力強く、逃さぬようにという気概を忍ばせて、只の同級生がするには近すぎる距離感から飯田は聲をあげる。)「アナタがしたいようにして、言うとおりにする」   (6/30 00:24:56)


蕪木 千歳> 
( あっ、と、内心だらだらと冷や汗をかいた。ちゃんとさん、呼び方の距離感は馴れ馴れしかったな、なんて焦りを生んで、なんだこいつ……とか、そんな風に思われていないことを、願いたい。というかそうだよね、殆んど初対面みたいなものなのに相合い傘とかお互い気まずいのでは?けど、そっか、じゃあね!と帰るのはあまりにも人でなしすぎる!!! 『 そ、そっか………っえ、へ、えっっ!?』下駄箱から取り出した靴を履き、トントン、と踵を鳴らして整える。そうして顔を上げた途端、目の前には貴方のお顔。吃驚して後ろに下がれば貴方もそれだけ着いてきて、トンっと背中に冷たい下駄箱の側面が当たった。近い。物理的に。とても。身長差が10cmくらいあるものだから、完全に立ち上がってしまえば顔は少し下に合って、見上げる仕草が愛らしくもある。けれどにしたって、あまりにも、近い。問い掛けられた質問、それから、添えられた説明書に、私はぱちぱちと、瞳の中に疑問を浮かべて瞬いた。『 え、え、えぇ………と、……どう、だろう。そのっ、…帰れなくて困ってるなら、助けになりたいなって思う、し、けど、折り畳み傘だから、小さいし、止むのを待った方が良いってくだくちゃんが思うなら、それでも、良いし……、んん…………。 』防衛本能で胸の辺りまで上げられた片手の平が、弱々しく閉じかけては開き、またしおしおと萎んでいく。へいお嬢ちゃん!傘入っていかない?なんてナンパをするつもりでは少なくとも確実になかった。強いていうなら、大丈夫かな、と気になってしまって、困ってるなら助けたいかもな、くらいのもので。ただはたと、断る貴方の方だって申し訳無さや言いづらさを抱えるのか、ということに気付いてしまうと、好きにして良いよ、なんて言うのは、あまりにも身勝手な風にも気付いてしまって。……それを今、迫られてもいるんだけど…。したい、ように。う"ーーーん……。『 くだくちゃんの迷惑にならない事がしたい…かな…………? …それだけ、なのかも。 』多分ただちょっと見栄を張って、人目を気にして、良い格好しいがしたいだけ。困ったように思わず曖昧に笑ってしまって、弱々しく閉じたり、開いたりしていた手が頬を掻く。しとしと降りの雨はまだ、止みそうになかった。)   (6/30 00:52:57)