フェルディナンド・クルーガー

Hyper・Euphoria

フェルディナンド> 
「...音戯、さんでしたっけ...?」彼女は辿々しく声を出した。久しぶりに喋ったなんて言わんばかりにところどころ上擦らせて。その目線の先には、貴女が居た。音戯華子、貴女が。彼女はその屋上と階段をくぎるドアノブが生温くなるまで握っていた。動けずに居た。まさか、まさかこんな場所で人に会うだなんて思いもしなかったのだから。気弱な彼女では無理もないだろうか。いや、気弱だとか、そんな話は今の彼女にとってはそこまで、意味のない話...なのかもしれない。兎にも角にも、彼女は貴女を見つけたのだ。この寂しく何もない夜の校舎と月光に挟まれた屋上_夜空には月が青々と浮かんでいた。その直感にある校舎もまた、夜の海の中に浮かんだ漁火の一点のようで、淡くぼやけていた。どこからか吹き込んだ風が、撫でるように校舎のガラスを揺らす。煌びやかで賑やか。土と汗をどこかに漂わせる学徒特有の大人の中に若さを注いだ雰囲気。それもこう言う時分では隠れてしまって虚無な感覚、侘しさなんかが顔を出していた。さするに、このように夜の海とも言えるようなここに。他の船舶もなしに、灯台もなしに一人彷徨うな孤独な校舎に乗り込んだ彼女はこの世というものから引き離されてしまったような、後にも先にも何もなかったような不思議な空の心というものを引っ提げていた。教室の中で一人黒板に落書きをしても、いつもは滅多に、見つめることすら叶わないあの赤髪の子の席に一人座ってみるのも。どうも、楽しいとは思えなかった。否、楽しくはあったのだが、窓から見えたポッカリと浮かんだ月に自身のこの空っぽな心とそれを埋めんとするような動機を見透かされてるような心持ちで漫ろになるばかりであったのだ。夜の学校に乗り込んだ、なんて青春の大きくありきたりで、若者の心に仕舞われたバイブルにも描かれていそうな行為。だが、彼女の場合は少しもそんなことはなかった。ただ〝帰る場所を失って、置いて行かれた〟だけなのだから。もっと光を、なんて言った西洋の詩人も居たくらいだ。されどその光が虫螻にとっては、離れたくとも離れ難い。されど身を焦がすだけの、イカロスにとっての太陽のようだと思わずには居られないのは、彼女もまた虫の一匹であるからであろうか。彼女はひっそりと、黙って座っていた席から腰を上げた。_ガタンっ...。なんて普段なら聞こえもしない椅子の音も、自身の浅くい呼吸音も嫌に聴こえた。何もかもが彼女を捕縛して仕方ない。自分のことを虫だと喩えるにはあまりにも的を射ていて自傷的に笑った。彼女はそのままにゆぅらり、くぅらり。幽霊のように校舎を歩き潰した。理科室、パソコン室、教員室、etc.。どこに行っても満足はしなかったが、退屈もしなかった。誰にも見られない、人がいない。それはなんだか彼女の弱い心へのしばしの安息と思われたからだろう。歩き回って歩き回って。虱潰し。目的もなければこの理由も対してもない。数キロの敷地内での逃避行。その逃避行も一時間も過ぎれば終わりに近づいた。体力的に行ける場所が少なくなったからである。自身の歩いてきた方向をふと振り返れば、脱出口の方向を示す緑の蛍光灯だけが光っている。まだ帰りたくないだなんて思ったのだろうか、それともそれも空なのか。彼女の足が最後の目的地に選んだのは。屋上だった。   (7/16 18:17:14)


音戯華子> 
「ルー、ルーーーーーー。ルーーー...................」(屋上に、静かに歌声が響き渡る。満点の星空が広がってるわけじゃない。ただ、月が雲の隙間からときどき姿を表すだけ。ほとんどがくもり、蒸し暑い夜だから腕は蚊に刺されているの。)「ルーーーーー、ルーーーールルルーーーーー、ルーーーーーーー..............」(蚊に刺されるのはいやだけれど。気にならないわけじゃないのだけれど。だけど彼女は、夜に隠れるかのように屋上にいるの。手すりに両腕をついて、体重をかけて。短パンのポケットから伸びた白いコードは、耳の中へと繋がっているの。時折吹き付ける少し強めの風は、藍色の髪をぐしゃぐしゃにしていってしまうけれど、腕は痒くてしょうがないし、外は暑いけれど。)「ルーーーーー......................」(それでも、ただ広大な居場所がそこにはあるのです。)「ルーーー、ルルールーーーーーーー.........................」(耳から聞こえる音楽に合わせて、静かにメロディを口ずさむ。それだけの、本当にそれだけの夜でした。)(そう、たった今、この瞬間までは。)『...音戯、さんでしたっけ...?』(とっても静かで深い音楽のなかに、聞き馴染みの無い雑音が混ざったような。そんな気がして、左右を確認して、最後に後ろを確認すれば、そこには誰か─────あまり見覚えのない人間がこちらの様子を伺っている様子。)「───────────.................こん、ばん.........は?」(貴方が彼女の口ずさむ声を聞いていたかは分からないけれど、挨拶だけはしておくように。夜中にこんなところに来るなんて、幽霊くらいしか思い当たらないのだけれど。寧ろそうでなければ余計に怖いかもしれない。)「..............こんな時間に、どう............されました?」(要件を聞くだけ聞いて、早めに寮に帰ろうかなぁなんて。そんな気持ちで、社交辞令的に貴方に問いかけるの。)   (7/16 18:55:01)


フェルディナンド> 
どうかされましたか。なんて聞かれても、何も出てこない。貴女に会うなんて自分も考えもしなかったのだから。彼女の手は思わず、自身の服、胸の内ポケットへ伸びかけて。そこで止まった。そこには彼女にとっての全てがあった。きっとこう言う時に切れ抜けれる方法もきっと書いてある。だけれども、この二人きりの空間は。開放的なのに息の詰まるような黒で囲まれた空間は。何をしてもすぐに目立ちそうで、彼女はそのポケットから手を抜く他になかった。彼女はそのまま数秒だか、数分だか。黙ったままであった。どんなに幻想的な雰囲気もセンチメンタルな心境も、彼女の性格をどうこうしてくれる訳ではなかった。きっと彼女が口を開く時、第一声はこうであろう。「お歌、お上手...なんですね。」彼女は上手くは笑えないようで貴女の足元あたりを見つめては切羽詰まった笑い声を掠らせた。距離は相変わらずに、遠い。月光がなければ、貴女の姿さえもわからないくらいに遠く遠く感じるいる。会話だってどうやってすればいいか、〝アレ〟がなければちっとも見当がつかない。彼女は貴女が何かを言う前に自身の放った言葉が会話としては不自然であり、なによりも自身のことを疑わせてしまうことに気づいては「あ、っ...い、いえっ...盗み聞きと、かっ!!そう言うんじゃっ!!!」だなんて唇をワナワナと振るわせるようにして蛇足を続けるのだった。   (7/16 20:34:03)


音戯華子> 
(貴方がなんにも返さないものだから、彼女はほんの少しだけ、ほんのちょっぴりだけ怖くなってしまう。まさか本物の"幽霊さん"なんてことだったらどうしよう、なんて微かに心の中でゾワリと毛が逆立つような感覚に陥ってしまって。)(それから、貴方がようやく発した一言に少しだけ緊張で固くなっていた頬を緩めるの。)「お歌、というほどのものじゃない、かもですけど、ね............................。」(つまりながら、つっかえつっかえ、単語を繋げて文章にして、言葉を紡いで意思を伝えるために声を出す。だけど、歌を褒められるのは好き。自分の武器だから、それを認めてもらえると心が弾んじゃうの。距離を保ったまま、ポケットに手を突っ込んだり突っ込まなかったりする貴方の様子を少しだけ見守って。それから、盗み聞きじゃない、なんて慌てだす貴方を見れば、さっきよりは安心するんだ。ああ、同じ人間なんだなぁ、なんて相手の弱点を見つけて安心するような、あまり褒められたことではないけれど。)「............うふふ、だいじょぶですよ。」「アタシ、ね。音楽、聞いてたんです.........................なんか、聞いてたら楽しいみたいな、悲しいみたいな、難しい気持ちになっちゃっ、て。ちょっと、口ずさみたくなっちゃって、.........................静かだけど、あったかくて、冷たいのがいい、かも。」「いっしょに..........................聞く?」(にへ、と尖った目を細めながら、イヤホンを片方だけ外して貴方がいる方向に差し出すみたいに。普段はこんなことしないのだけれど。夜に貴方がそんなに哀しい顔をしてここに来たものだから、少しだけ休んでみない?なんて軽いデートのご提案。音楽の世界をあちこち旅するデートはほんの少しだけ綺麗で美しくて、落ち着くものだから。)   (7/16 20:50:34)


フェルディナンド> 
心臓が痛いくらいに高鳴っていた。普段ならばここまで緊張しないのに。するはずがないのに。貴女の目は、笑っていた。その尖った...でもどこか優しくて、不器用な鋭さの目つきに心臓をつかまれたようにも感じた。貴女が彼女を見つめる中、彼女もまた貴女のことを見つめた。それは目というよりかは心でという意味で。淡い淡い期待が彼女を満たしていく。抑えなくては。抑えなくてはならないと分かっていれば分かっているほどにその火傷のような葛藤がじわじわと体を蝕む。わかっているのだ。一度あったことが二度も三度もあるものか。あの赤毛の子が、運命であっただけで。目の前の貴女がそうであるとは限らないと。彼女は気がつけば胸元に手を当てて背を丸めていた。発作のように、自身を落ち着かせるように。そういえど、貴女の言葉を聞き漏らした訳ではなかった。貴女が曲を聞いていたと言ったことも、ほんの少し彼女の言葉で頬を緩んだことも。全部全部ちゃんと見ていたし聞いていたから。そして、貴女がイヤホンを差し出してその鋭い目つきを緩める時にはちゃんと。ちゃあんと、いつも通り。辿々しく、おどおどと。しかし笑みを忘れないように。そっとそっと「ぜ、ぜひ...!」とフェルディナンドとして、貴女の方へと歩を進めては貴女のてからイヤホンを受け取るのであった。   (7/16 21:13:15)


音戯華子> 
(シアンよりは少し藍色に近いような、けれどほんの少しだけ空色に近いような。こちらをジッと見つめるその瞳は、ふわりと輝くの。)(貴方がイヤホンを受け取ってくれたのなら、彼女はポケットからスマホを取り出して。『最初から再生』ボタンを押すの。)「ふるい曲、なんだけどね。」 https://youtu.be/V1Pl8CzNzCw (────────────イヤホンから流れ出すのは。可憐な少女、というにはあまりにも憂いを孕んでいる声の女性と、物悲しげな声を絞り出すように歌う男性と。それから、深い海に沈み続けるような音を奏でるバイオリンと、たまに美しさと静けさを悲しみに閉じ込めてしまったようなピアノの音。)(彼女は目を瞑って、屋上の手すりにまた体重を預けて。息を止めるみたいに、音楽にもう一度聞き入るの。貴方が気に入ってくれるかは分からないけれど。)   (7/16 21:41:38)


フェルディナンド> 
イヤホンを耳にはめる。思えば、そんなことも長い間やっていなかった。〝そういうこと〟には無縁だったから。音楽をまじまじと聞くなんてことをしなかったものだからこういう時どう言う姿勢をしたら良いのかも知らなくて、とりあえず貴女と同じように手すりに腰を預けた。_聞こえてきたのは、女性の声だった。自分よりも幾分か大人びても聞こえた。それから、男の人の声。そして低く響くような音。海の水底へと大きな船が沈めばこう言う音が鳴るのだろうか、なんて足りない想像力で考えた。ヴァイオリンとかピアノとかはよく分からなかった。きっと隣の貴女よりもずっとずっと、解像度の低い何かを想像しているのだろうことは考えるまでもなかった。それでも、別に悪い気はしなかった。背中の後ろにあるのが高い高い建物ではなくて、磯風であるような気もしたし、そもそもに今が夢であるとさえ錯覚してしまいそうな気がした。きっと今の彼女顔は、神妙でありこそすれど悲しくも嬉しくもない表情をしているに違いない。ただ、片耳に夜風の切れる音を聞きながらもう片耳で貴女と同じ音楽を聴く。それが良いことであるような心持ちであることだけを感じていた。表現することはなくとも、ただ静かに音を感じていた。それは曲が終わったしばらくの間、彼女を黙らせて何かに浸らせるには申し分なかった。   (7/16 22:15:55)


音戯華子> 
「津波が、押し寄せるの。」(曲が終わってから、しばらくして。貴方が沈黙を保ち、そこに静かな、だけど確かな暖かさがひんやりと立ちこめるくらいの頃合いに。彼女は、呟いた。)「いつもいつも、夜になると津波が押し寄せてくるのさ。」(話し始めたのは、夜の話。引っ込み思案でロッキーな女の子の語る、夜のお話。)「いつも、夜の津波から逃れるために必死に必死に、逃げ惑うんだ。津波に飲み込まれちゃうと、死んじゃうから。」(詩的な表現にはなるけれど、つまりは夜の静けさと寂しさと不安定な心の中のお話。)「屋上からは、津波がよく見えるの。アタシのことを飲み込んじゃおうとする津波が静かに、街中でさざ波を立ててる感じ、なんだけどね。」(夜はどこにも居場所がないけれど、そのかわりどこにでも居場所がある。心の中がいつもより活発になって、でも体は休みたいと言ってくる。どうしょうもないすれ違いを埋めたくて、屋上に来て。)「この曲聞くと、ね。ほんの少しだけ疲れとかしんどいのとかが回復して、足が速くなるの。速くなって、なんとか夜の津波から逃げ切ることができるの。それを、毎日繰り返してるんだぁ..............................。」「延命措置、みたいに。」「昼はいつだって誰かの喋り声が聞こえて、ああ生きていかなきゃあなって。ギター鳴らして歌って、叫んで、笑って。けど、夜はそういうわけにも行かないから、この人の音楽聞いて逃げるのさ。」(そこまで、ぼーーーっと校舎の向こう側の地面に広がる、小さな汚い星々を眺めながらつぶやく。それから我に返ったようにあたふたと落ち着かなさそうに。)「あっ、えあっ、の、そのぉあれ、そんな感じのが、なんか.........」「過ごし方とか、好きだから、共有とか、できたらいいな..........って思っちゃった、ごめんなさ、あのほんとにマジで忘れて..............」(自分が発した言葉の恥ずかしさに顔をトマトみたいに染めながら、貴方に向かって身振り手振りで恥ずかしい気持ちを隠すようにふやふやと動かしたりして、そのまま手すりの向こうに顔をやりながら止まって。)「なんか..................ちょっと、しんどそうな顔してた気が、して。」「気のせいだったら、ごめん、ね。」(彼女はふい、と貴方の方に瞳を動かし、大丈夫そうかを確かめるように。イヤホンコードでつながってるのなら、ちょっとは哀しい感情を共有して、それを和らげられないかなって。そんな、世迷い言を呟くみたいに貴方を、優しい横目で見つめるのさ。)   (7/16 23:01:19)


フェルディナンド> 
あぁ、やっぱり。貴女もまた。同じなようだ。彼女とおんなじ。彼女は貴女の言葉を一言一句とも、聞き逃すことはしなかった。そのちょっとだけロッキーな喋り方も、元の萎んだ風船のような態度にも驚いたりはしなかった。だって、一緒だったから。ただ、貴女の横目みたいに優しい目つきだけはきっと彼女にはできないのだろう。彼女はひとしきりに、貴女の言葉を聞いて聞いて。そして噛み砕いて、ゆっくりと唾液と混ぜて胃の中に収めた。真っ赤なトマト。彼女にとっても美味しいトマト。彼女はやっとのことで飲み込んでは、口を開いた。「えぇ...ありがとうございます。ありがとうございます。素敵だと、思うんですよ。」だが、その口調はさっきまでの気弱でおどおどとしたものなんかじゃ決してない。もっと流暢で、落ち着いて。だのにどこか腹の底に悪意というものを感じてしまいそうなほどにこなれた声である。「そうですね。些かにはしんどいですけど、貴女のおかげで楽になるような気がします。」境界が崩壊する。言葉の節々から徐々に徐々に。最初出会った頃の彼女が消えていく。貴女が優しくも気にかけたあの虚な顔つきも、弱々しい手足も何もかもが嘘みたいに彼女は振る舞い出した。「苦しいですよねぇ。なんたって、自身のことを自身が分からないんですから...。ぇえ。苦しいでしょう。辛いでしょう。分かりますよ、分かりますよ...。貴女だってそうなんでしょうね。この前もほら、〝先輩に泣かされてた〟もんね。」彼女はよく喋った本当によく喋った。さらには大袈裟に身振り手振りした。ポケットに入ったイヤホンのように貴女と腕を絡ませようともしたし、かと思えば少し広めの、イヤホンがピンと張るくらいの距離をとってみようとしたり。そしてその度に貴女のことを。今日初めて会うはずの貴女のことを前々から知っているような口振りで話し出した。例えば、昨日どこで何をしていたのか。だとか、貴女のよく音楽のタイトルだとか。彼女は愉快そうに笑いながら、まるでそれが教科書にでも書いてあるかのように話す。その目は、優しくもなくただただの快楽に染まっているようだった。彼女は言った「貴女のことはずぅぅっと...へへ。ずっと見ていたんですが...まさかこうだとは。これも〝運命〟なのですかね?」と、ご機嫌に貴女の両手を握り込もうとしながら。   (7/16 23:37:36)


音戯華子> 
(彼女は照れ隠しみたいに髪の毛のさきっぽをくる、くるり、と指先でいじったりして、貴方が落ち着くのを待とうとしていたの。)『えぇ...ありがとうございます。ありがとうございます。素敵だと、思うんですよ。』(どうやら、思いの外回復が早いみたい。さっきよりも幾分か声に元気があるような気がして、ホッとしながら貴方の方に向き直ったんだ。)『苦しいですよねぇ。なんたって、自身のことを自身が分からないんですから...。ぇえ。苦しいでしょう。辛いでしょう。分かりますよ、分かりますよ...。貴女だってそうなんでしょうね。この前もほら、〝先輩に泣かされてた〟もんね。』「なぁ、の...........................?」「...............泣かされ.............?」(そこにいたのは、もう彼女の知る貴方ではなかった。歌声を褒めてくれたり、イヤホンをおずおずと受け取ってくれた貴方じゃあなかったの。生ぬるい液体が、うなじを伝っていくのが、やけにわかりやすく感じられて。唐突に腕が伸びてきてぬるり、と体を絡め取られたから息が止まってしまって。)「なッ、」(かと思えば距離を取られて、引っ張られたイヤホンが耳を削るように傷つけて、痛みが襲ってきたり。)「ど、どうしたんですか、急にっっ......!」(いきなり貴方の態度が豹変してしまったからわけが分からなくて、ただ耳を押さえていれば。)「..................っ!?!?!??!?」(貴方が語りだしたのは、昨日までの彼女の行動の細部に渡るまでの全て。一つ一つ言い当てられるたびに、自分の服を脱がされていくような感覚に陥って、頬が熱を失っていくのを感じ取った。真っ赤なトマトは、今じゃあもう熟していないライムみたいな青緑に、血色を失って。)「──────────、」(声も、でなくて。)「─────────────、──────っ、」(ただ、思い返される赤髪の少女の恐怖が、胸をナイフで優しく突き刺してくるの。)『貴女のことはずぅぅっと...へへ。ずっと見ていたんですが...まさかこうだとは。これも〝運命〟なのですかね?』「いっ、.........」「なんで、私なんかのことを、そんなに調べ上げるんです.........か?」(先程の間での夜がボロボロに崩れ落ちて出来上がったのは貴方の孤城。閉じ込められてしまえば、出られる気もしない。逃げるのも怖いし、逃げないのも怖いし、だから貴方を少しでも理解したくて。「私のことを............みてたって、なん ...........で.......?」(分からない、なにも分からないし、なぜ貴方が赤髪の少女のことを知っているのかも分からない。なぜ音楽の好みも過去も知られているのかが分からないものだから。)「.......................ちょっとこわい、よ。」(彼女は汗を額から流しながら、貴方から距離を取ろうとして一歩ずつゆっくりと下がろうとするんだ。)   (7/17 00:13:48)


フェルディナンド> 
「何故というのは、手段ですか。目的ですか...?私ですね。音楽ってもの、あまり興味無かったんです。いや...ありはしましたけど、そこまでだったんです。」彼女は胸の前に手を当てて大事そうに大事そうに何もないはずの手の中を見つめた。そして、あんなにも楽しそうだったのに、あんなにも笑っていたのに。その頬に涙を一筋落とすのだ。「でも...貴女のおかげで...音楽って良いものなんだなぁって...そう思えたんですっ...!あぁ、違う違う...。言い直しましょうか。そう思えたんですよ、音戯さん。」彼女は泣きながら笑いながら、そんな風に声を跳ねさせた。だがそれと同時に違うと言っては落ち着いた風に言葉を訂正する。その口調ではいけない、正しくないと言わんばかりに。彼女は狂人であった。その涙にも笑顔にも、同情すれば知るほどに深く生ぬるい沼へと引き摺り込むような深い深い得体の知れぬ存在が、彼女であったのだ。「あのね。音戯さん。私、思うんですよ。」一歩、貴女が後ろに行けば後ろに。「私と貴女ってとってもとっても分かり合えるんじゃないかな、って。」一歩、貴女が左に行けばそちらに。どんどんと足幅は貴女よりも広く、早く。距離を詰めて。「だって、貴女は。貴女は。」どんどんどんと、貴女の元へ。眼前へ。思考の中へ。彼女というのは流れ込む。「こんな私にも、優しく気遣ってくれたんですから。」グィッと彼女は貴女の手を今一度握り込もうとするだろう。それは握手だとかそういう類のものではなく、もっと一方的で暴力的な。捕縛のようにねちっこくて気味の悪い手で。「貴女のことだからきっとこんな私を見て怖いと思っているんでしょう...?〝逃げたいけど、屋上で逃げられない〟だとか。〝なんで私のことを知っているの〟だとか。」彼女は笑っていた。涙は、月光に輝いてガラスのように見えることだろう。水っけのない、作り物のような涙に。「どうか怖がらないで。貴女が呼んだんです。こう言う私を。貴女が、貴女が私を刺激するから、生まれちゃったんです。ねぇ。音戯さん。分かりますか、音戯さん。」彼女は熱の篭った声で何度も何度も名前を呼んでは仕切りに距離を詰めるだろうか。   (7/17 00:38:59)


音戯華子> 
「ちが、な.........................あの、ぁ、ああ、」(詰め寄られれば、浴びせられるのは理解に苦しむ程の狂いきった言葉の数々。そもそもほぼ初対面の筈なのに名前を知られているのもよくよく考えれば違和感があった。けど違和感というほどのものではなくて、名前が知れたっておかしくない職業だから気にするほどではなかったのだけれど。)「わたし、は...........!」「アタシ、は。」「貴方の本音が、なにかはよくわからない、け、ど。」「お友達が、欲しい......?それとも、優しくされたい........?のなら、このやり方は、怖がらちまう、と思う..............」(力強く、ガサッに握られた手はぬるりと生暖かくて、それが余計に恐ろしさを増して。)「分かり合いたいなら、アタシのことを言うんじゃなくて............アンタのことを、教えて、欲しい............。」(落ち着いて、息を整えて。大丈夫、夜だけど。怖いけど。よく、わからないけど。でも、まだ悪意とは限らない。赤髪の女の子みたいに、怖がるだけじゃ何もできないから。貴方がもし、友達が欲しいだけの人だったとしたら。傷つけたいんじゃなくて、誰かにそばにいて欲しい人だったとしたら。突き放すわけには、いかないから。)「生まれちゃったかは、わかんないけど。」 「ただ一言ありがとうっていって、くれれ、ば ................」「アタシ、怖がったりなんてしない、から。」(必死に自分を落ち着かせながら、貴方の爛々と光る瞳にそっと見つめ。それから、彼女は貴方にもう一度だけ、問いかけるのさ。)「こんな時間、に。」「...........どうしたんだい?」   (7/17 01:06:36)


フェルディナンド> 
「友達...?優しく...?いえ。いえいえいえいえいえ...?私は、ただ...居るだけなんですよ...?私は、私は貴女のために居るだけなんですよ...?何でこんなところに私は居るんでしょうね...?私は一体誰なんでしょうね?でも良いんです。貴女が居るんですからね。」いよいよ持って話が通じない。通じることのできないものがそこにはあった。彼女の言葉にも、行動も嘘だとは思えないほど真に迫る。だからこそ余計に可笑しいのだ。さっきまでの彼女と今の彼女。見た目こそ同じであれど、中身は本当に別人としか言いようがないのだろうか。「ねぇ、そんなくだらないことなんて置いておいて、もっと音楽を...そうさ音戯さん、私たちどうせなら______________」 彼女の言葉を遮る音は突然鳴った。それは貴女にも彼女にも耳馴染みの音。スマートフォンの初期設定からある、着信音である。そのなっているスマホの所有者は、彼女だった。彼女は良いところなのにと言わんばかりに眉を寄せてポケットからスマホを取り出した。あまりにも眩しい光に小さな声を出して怯んだ。そして数秒かけて目が慣らしては画面をもう一度直視した。「...ッ!」彼女の顔つきがあからさまに変わったのがきっと貴女にも分かることだろう。彼女は貴女に「ご、ごめんなさい...。ちょっと...。」なんてなんだか拍子抜けなくらいにおどおどと断ってから、電話に出た。顔は貴女にも見せなかった。だけども電話越しに頭を下げたり、手を動かしたりしていること、電話の相手にあまりにも遅い外出なものだから心配されていることは分かってしまうだろうか。とどのつまり、彼女の城にも時間制限があったと言うことであろう。彼女は電話を終える頃にはまた、最初のような根暗な雰囲気を漂わせるほどに変わっていた。先ほどの存在が嘘であるかのように、それともその態度の方が嘘でありように。 すっかりと落ち着いて何事もなかったような臆病な彼女は電話の後、「お、音楽聞かせてくれてありがとう...ございました...!よく分かんなかったけど、良いものなんですね。音楽て...!」なんて感想を述べては丁寧に耳から外したイヤホンを渡してはそそくさとその場をさろうとするだろうか。その行動には先ほどのような狂気的な熱意もなければ、熱烈な行動の片鱗があるわけでもなく。いたって普通で、普通すぎて、気味悪い。きっと彼女は最後に深々と貴女に向かってお辞儀をすればそのままに屋上を去ることとなるだろう。   (7/17 01:27:57)