伊藤 優希>
はらり、はらり。ぱたん。(いつものように真っ白な表紙の本を開いては閉じる。この動作を何年も続けてきた。もうこの本の内容は暗記しているに等しい。それなのにこんな無意味な事を続けるのに、理由がある訳でもなくて、ただその行為に意味を見出そうと躍起になっている、とも取れる。噴水の飛沫が映る。わざわざこんな所で開いてしまわなくても良かったな、なんて思いながら、なんとなく噴水を見つめる。孤児院のみんなと離れてこの学校にやってきた。何故と聞かれれば、ちょっと答えに困るけど)「考えれば考えるほど、流されやすい…」(流されやすいと言うよりも目的が毎回不明瞭なだけかもしれない。割といつもなんとなく、とりあえず、で動いてきたから。いや、しかし、僕は何か目的を持ってこの学校に訪れたと思うのだ。その目的を覚えていないのは、それ自体に思い入れが無いからか。そもそも)「僕なんでこんなに悩んでるんだっけ?」(ああ、思い出した。今日はあんまりツイてなかったのだ。寝つきが悪く寝不足気味で、食堂でお気に入りのメニューは売り切れ、消しゴムは無くしてしまうし、ちょっと小さなツイてないが多かった。それでまあ、少しだけ疲れてしまった)「ふぅ…」(と、息を吐く。噴水でも見れば心がスっとするかなと思ったが、どうやらそうもいかないらしい。授業も終わったし、いつまでもグダグダしてないでさっさと寮に帰ろうかな。なんて思いながらもうちょっとだけ、眺めてようと噴水を見つめた) (5/8 23:13:31)
ジェントル>
「落ち着くよねェ。噴水。(なにがしか悩んでいるらしい君に、彼は厭うことなく背後から話しかけた。ぼーっと、流れる水を眺めている君に彼は『興味を持った』らしく。)ご機嫌ようゥ…ボクも噴水好きでねェ。よく来るんだけど、他のこともせずに眺めてるなんて珍しィなあァ~~~って、思ってさァ。(ある意味で、君の『ツイてない』はまだ続いている。彼はなかなかに、変わった人物だ。)ボクも、ナイフいじったりしながら眺めて落ち着くものだからねえェ…(それは、『ナイフ』の一言だけでもうひしひしと伝わってくるだろう。)君の振る舞いが、とても紳士的なものだったからねえ。(そして君はそんな人物に、満面の笑みで立ち向かわれているのだ。)君にとってそれほど、噴水は美しく映るのだねえェ…(タイミングが悪かったのであろう。ちょうど君が、噴水だけを眺めているときに、彼は君を見つけてしまったのだから。)ああァ…そう、申し遅れたね。ボクはジェントル、見ての通り名前の通りの紳士さァ。3年生だよォ。(そして重なる恭しい礼が、余計に彼を変人に見せた。)」 (5/8 23:36:22)
伊藤 優希>
「ジェントルさん…ですか」(突如声を掛けられる。そちらを向けば黒いシャツに白いネクタイの男性が、そして左目側は包帯でぐるっと巻かれている。その男性はジェントルと名乗ってきた。若干だけど『あ、ツイてないな』って思ったのは内緒だ。いかにも見た目と仕草がアレなので、ちょっとだけ抵抗感があっただけ、それだけである。…聞けば同じ学校の先輩のようだ。名乗られたなら名乗り返すのが礼儀というものだろう。何やら『紳士である』というのを重要視してるようだし)「初めまして、僕は伊藤優希、1年生です。優しい希望って書いて優希です。よろしくお願いしますね」
(笑みを浮かべながらそう自己紹介する。自分で言ってて大層な紹介だなとは思うが1番わかりやすいのがこれなのだから仕方ない。さて、噴水について話題を振ってもらった事だし、膨らまさせてもらおう)「美しい…ですか。そうですね。美しいのかも知れません。水の音って言うのが、結構好きなので」(と、当たり障りないことを話しておく。ぶっちゃけ初対面だし『ナイフ』とかあの顔の包帯とか、ちょっと怖い。なんでこの人ナイフ持ってるんだろう。紳士となにか関係あるんだろうか?紳士はナイフ持つのがマナーだったりするのだろうか?)「何もせずに見ていた訳でもないんですが…これは別にいいか…うーん、そうですね…僕のどの辺が紳士的だったんでしょうか?」(かなり探り探りなのが丸わかりな発言をしてしまった。正直孤児院のみんな以外と話すことがなかったので初対面の会話はあまり得意じゃない。不快な思いをさせてないといいけど…) (5/8 23:53:13)
ジェントル>
「ああァ…こちらこそよろしくうゥ、伊藤くん。(彼の名はジェントル。もちろん本名ではない。警戒されるのも当たり前の話だ、だって意味が『紳士』なのだもの。異常なほどにこだわり、それを名前にしてしまっているのだもの。)優しい希望。ヒーローらしい、いい名前だねえェ…気分も明るくなる。(そしてその、終わりのない笑顔も警戒されるひとつなのだろう。明るくなると言っているが、表情は万年明るそうなほど。ナイフや笑顔、ジェントルは恐ろしかろう。だが、彼の物腰は今はあまり異質、といったものはない。笑顔と包帯で隠れてはいるが、表情の再現は苦手、としているようだ。)そうだねェ。落ちる水の音、跳ねる水の音。どれも、安らぐねえェ…安心する…心がとても、落ち着く。(変人であることも変わらないが。)美しいものを愛す姿…それはボクにとって、紳士らしいと言って差し支えないモノだから。…君もその例に当てはまるからねえェ。(彼には、気を遣うという概念はあまり念頭になく最低限だ。彼は『保護施設』の出身で、むしろ慣れているのかもしれない。)ミスター伊藤…紳士らしいねえェ。(その砕けた振る舞いは、君を安心させる理由になる…かも、しれない。)」 (5/9 00:37:24)
伊藤 優希>
「あはは、ありがとうございます。僕を名付けてくれた人もきっと喜んでくれます」(思わずはにかんだ。自分の名前を褒められてちょっと照れ臭くなる。名前を褒められる機会はそこまでない。僕自身、自分の名前を気に入ってる訳では無いけど、嫌ってもいないから、自分の事を素直に褒められた気がしてちょっぴり面映ゆい。そして僕のどこが紳士的なのかという問いについての彼の返答を聞けば)「なるほど、そういうことですか」(一応彼は彼なりに理屈があってその様に僕のことを見ている…らしいと納得する。依然として雰囲気が怖いのは否めないが、悪い人では無いのかもしれないと、先程よりは態度を軟化させる)「ジェントルさんの思うような愛し方をしているかはわかりませんけどね。何せ目的もなく見ていたようなものですから。ただ、ちょっと今日はツイてない日だったな、なんて思ってただけなので」(苦笑してみせれば、僕は片手に持った本を懐にしまう。いつまでも持っていてもしょうがない)「ま、そういう日もあったなって思えるだけいいのかもしれませんね」(覚えてる事に思いを抱けるだけ、きっとマシなんだろうな。覚えてなかったら、知らなかったらその思いすら抱けないから)「あはは、すみません。初対面なのに」(と、相手に謝罪をする。今日の僕はあんまり調子が良くないみたいだ) (5/9 00:53:01)
ジェントル>
「(彼は不条理を呪っている。)そォなのかい。それは、失礼したねェ。(左腕の時計の、ディスクが回り出す。…その、大柄なディスコードは傘を背負う。傘からは星空のような薄暗い紫の雨が降り、地や人の身を濡らさずふわりと消えていき、シルクハットは湿ったような姿をして。)大丈夫さァ。『ボクたち』も、人並みの不幸は体験してるつもりだから。(倫敦雨は霧の街の、涼しい雨。その夜に、彼女との不幸は始まったのだと言う。)沈む気持ちは理解しているつもりだからねェ。とやかく言う資格なんてないさ。(でも彼女は、不幸のかたちはたくさんあって、どれが一番不幸かは変わるものだと、教えてくれた。幸せになってほしいと、願ってくれた。)レイン。今日は彼も、『不条理』の人だよ。(彼が手を差し出せば、同じように大柄なディスコードが差し出す手には傘が握られていた。)彼は、ボクに不条理を見て見ぬふりすること、やめていいって教えてくれたんだァ。(一端を、君に少し触れてもらいたくて。)…不幸っていうのは、耐えるものじゃないと思っててねェ…(右腕のディスクも、同時に回り出す。)」「『開かなきゃいけない』。(発現した鎖は、彼の目の前の地面を基にして、開闢した。)…それがボクの紳士らしさだからねェ。」 (5/9 01:18:16)
伊藤 優希>
「うわぁ…!」(彼の、ディスコードだ。他人のディスコードを見る機会はまだ少ない。勿論僕もディスコードを持っている。でも僕はまだあの箱を、彼を使いこなせていない。だからこそ、目の前の2つのディスコードを操る貴方を凄いと思うし、そしてそのディスコードが彼自身の象徴である事を直感で理解した)「…ジェントルさん、ありがとうございます。気を使ってもらっちゃいましたね、僕」(たはは、と笑う)「ジェントルさんのこと、ジェントルさん自身が教えてくれたので、まあ、僕もちょっとだけ」(相手から貰うだけというのも良くないだろう。だから、まだあって間もないけど、少しだけ自分を『開いてみようと思う』)「まあなんてことは無いんですよ。寝つきが悪くて寝不足だったり、好きなランチが売り切れだったり、ほんとにその程度なんですよね。あーあっては思いましたよ。なにやってるんだろって。でも誰が悪いって訳でもないので」(あぁ、でも口出してしまえばスッキリする。確かに)「…耐えるものでは無いですね」(と言って笑ってみせた)「でもねジェントルさん、僕はそれを悪いとは思わないんですよ。そういう小さな不幸も…不条理も。知ってるから嫌だなって思い返せるんです。知らなきゃ、『思い』出すことは出来ないんですよね」(懐古しようにも、するものがなければ、古きを懐かしむことは出来ない。例えそれがどんなものであれ、無いものに思いは抱けない)「そうは言っても、言うべきものは言わないとダメみたいですね!ありがとうございます。ジェントルさん」(そう彼に感謝を伝える。きっと、さっきよりは、明るく笑えてるのではないかな?) (5/9 01:46:03)
伊藤 優希>
「ないなぁ…」すとん(本を棚に戻す。見渡せば沢山の本がずらっと横一列に整頓されている。カミサマについて、コード理論、小難しい数学書。それらを手に取り、捲っては元の場所に戻す。無理もない。元々作品名も、作者名もなければ表紙すらないのだから。表紙が真っ白な本。中にはとある王子のお話が書いてある。僕はその本を肌身離さず持っている。だってこの本は僕の一部だから。孤児院で馴染めなかった時の最初の友達)「…仕方ないか」(僕は図書館でこの本の作者と同じ本を探していた。誰がいつ書いたのか分からないけど、僕はこの本に助けてもらった。だから、この本を書いてくれた人をいつか知りたいと思っていた。けど、そう上手くはいかないらしい)
「やっぱり無いのかなぁ…そもそもこんなに本があると探すのも一苦労だし」(迷惑にならない程度の小さい声で思わず愚痴を零す。とは言え1日2日で何とかしようという気はない。気長に探してみようかな)「ちょっと休憩しよ」(適当なテーブルのある席に座り、服の内ポケットから白い本を取り出して読む。もう何回も読んだ話だ。そらで言える位には暗記しているけど、それでもやっぱり字を追いたくなるのは、それだけこの本が好きだということ。思わず口角が上がる)「やっぱり、見つけたいなぁ」(と、呟きながら本を読み進める) (5/10 22:14:28)
ピース・オブ・ケイク>
「...恐縮ゥ...なのですがァ。」耳元から、声が聞こえた。単語一つ一つの間に妙に生々しい微かな掠れた吐息を挟んで聞こえたその声。君が懐古し想いを馳せている間。意識が周囲から本へと切り替わっている刹那。そこに入り込むようにしてそれは座っていたのだ。...男だ。男だった。...いや、男なんだろうか...?もしかしたら君はそう思ってしまうかもしれない。細々と困ったように目尻が落ちた目つきと、同じような困り眉。長い髪の毛と肉の少ない痩せた輪郭。女性的、というよりかは男に見えるが、男性的外見が薄い、と言ったような風貌であった。それこそ次の一言、二言のうちに男が別の生き物に変わってしまう、見失ってしまう。そんな風に思わせるような顔つきだった。よく見れば、男の服装もまた奇妙なものだ。室内だと言うのにやけに厚着をしている。それに傘を携えており、手から離そうとはしない。最初こそは違和感もないのかも知れないが。見れば見るほどに不可解な違和感を膨らませてしまう。だが、見なければ彼が瞼の裏で水泡のように爆ぜるのではないか、だなんて思ってしまうかも知れない程である。君の顔のすぐ近くまでに顔を近づけていると言うのに他の人間はこちらを訝しむことも妙な視線を送ることもない。それは彼の独特な雰囲気によるものなのか。それとも彼がなんらかしらの理由...。例えば、奇行であったり、過去であったり、出身であったり。そんなものが原因でそうなっているのかは分かりはしないだろう。「......そのォ...。迷惑、だといけないんです...がァ、ァ...。何かァ...お困りでしょうかァ?」彼の次のセリフだった。先ほどと同じように吐息混ざりの粘着質な声と、ひび割れるような間に挟まれた重低音。相変わらずの申し訳なさそうな表情は未だに君のことをジィッと近距離で見つめているばかりで、離れる気配すらない。だが、彼は君が何かに困っていてそれをもしかしたら手伝えるかも知れない、と言った風な口振りだった。君にとってこれが何かの一助となるやも知れないし、災いであると頭を抱える出来事かも知れない。彼はただ短く要件を述べれば、それ以上話すことはなく、ただ君を見つめながら返信を待つのみであった。 (5/10 22:57:07)
伊藤 優希>
「あわ」(唐突に近くに出てきた男を見て驚く。男?男。多分?最近良く変わった人物に遭遇する。本を閉じて男に相対した。トレンチコートの彼を見て、僕は口を開く)「えっと、そうですね。とりあえず、自己紹介しますね。初めまして、僕は伊藤優希です。1年生です」(困り事を聞いてもらうにも、まずは自分の素性を明かしてから。学校内の人間なのだから、そこまで危険性は無いだろう)「それでですね。困ってる事、と言えば…コレなんですけど」(僕は閉じた本を相手に見せながら、話を続ける)「えっと、この本は僕が孤児院に居た時からずっと持ってる本なのですけど、見ての通り表紙が真っ白で作者も無ければタイトルも無いんです。ただ」(一呼吸起きながら、本の表紙をなぞるようにして、言葉を紡ぐ)「僕はこの本の作者の名前を知りたいんです。でもまぁ、これだけ本があると探すのも一苦労なんですよね…もし良かったら手伝って貰えませんか?」(苦笑しながら相手の目を見て頼んでみる。相手は初対面。もしかしたら断られるかもしれないけど、助けになるかもしれないと申し出てくれてるのできっと助けてくれる…かな?恐る恐るにはなってはいるが、それでも頼んでみる。所謂、ダメで元々、と言うやつだ。) (5/10 23:13:46)
ピース・オブ・ケイク>
彼は君の自己紹介を聞き終えれば、ただ静かに「私はァ...。......これはあまり、必要ではなかったです、ねェ...。失礼しましたァ...。」とだけ言って自分の名前も何もかもを名乗ることはしなかった。それは過剰な謙遜にも見えるし、なんらかの名乗れない事情があるようにも見える。やはりこの男はどちらとも言えない。しかし、どちらでも正しいようにも思ってしまう。不明瞭な男だった。だが、君のその〝悩み〟にはしっかりとした反応を見せるようで、君の一連の話を聞き終える頃にはそっと隣から立ち上がり、君の背後へと回った。そして腰を曲げ君の顔の横から自分の顔を並べるようにしては「...その...迷惑ゥで...恐縮...なんですがァ...。本、見ても...良いですかねェ...?」と申し出た。彼の体はどこか冷たく、近くにいると言うのに距離を感じるようだろう。それは体感と言う意味でも、心という意味でも。彼は無駄話どころか、挨拶や遠慮と言ったコミュニケーションを取ろうとしないのだから。あくまでも君の悩みに対する補助であり、君の苦笑いも本を見る時のどこか遠いところを見るようなしなだれた目つきも。彼は意に介さず、ただ淡々としていた。)(5/10 23:28:20)
伊藤 優希>
「??…そうですか」(相手が自己紹介を省いたのを聞いて少し変わった人だなと思った。でもここ最近会った人もかなり変わっていたし、ここの学校だとそういう人が多いのかもしれない。そして本を借りてもいいかと聞かれたのでにこりと微笑む)「ええ、構いませんよ」(相手に本を渡しながら、繋ぐ)「この本の物語は、記憶を失った王子様のお話。王子様は木々や花、リスや人々に聞いてまわります。『私の生まれた場所はどこですか』」(ああ、覚えている。記憶している。完全に忘れることなどない。僕の中で確固たる記憶を呼び起こす)「みんなは答えます『知らなくても大丈夫。貴方はこの国の王子様なのだから』でも王子様が欲しいのはそんな言葉じゃないんです。王子様は探しました。失った記憶を、探して、探して、わかりました」
(ふぅ、と息を吐いて呼吸を整える)「なかったんです。最初から何処にも。彼には故郷なんてなかった。生まれた場所なんてなかった。彼はみんなの思いで作られた王子様。そうあれと願われた王子様。覚えてる訳ありません。知っている訳ありません。そもそも生まれてすらなかったのですから」(ただあった、というのがこのお話の結末)「王子様は悲しみました。私には、思うべき故郷も、懐かしむ記憶もなかったのだと」(物語はそこで終わる。子供が読むにしてはかなり虚しい。だけど、僕はその物語に不思議と惹き付けられ、今もその物語の残滓に縋っている)「とまぁ、そんなお話です…って読めば分かりますよね。すみません」(好きな物に興味を持ってもらってちょっと舞い上がっていたみたいだ。落ち着こう) (5/10 23:42:36)
ピース・オブ・ケイク>
「...そうですかァ...。」彼は淡白だ。それか鈍いのかも知れなかった。話のあらすじを聞いても、流すように返事するだけだった。彼は本を渡して貰えば、後ろからページを一枚だけ捲り、文字を目で追って。やがて閉じてしまった。そもそもに話なんて興味ないのかも知れなかった。一ページしか読まない。ラストシーンだけを無感情に眺めただけだったのだから。彼は「失礼...しました...。」と小さく謝りながら本を君へと返した。そして、「探してきますねェ...。」それだけ言って君の側を離れていくだろうか。彼はやはりと言うべきか、言葉が欠けている。きっと彼なりにどこか思い当たる節があったのだろう。だが、それを解説するほどではなかった。むしろ、君の探すものをすぐに見つける方が大切であると判断したのだ。彼の足取りはゆったりと、しかし確実だった。陰気な物言いではあるが背中は曲がっていないし、特段に奇妙な点は見当たらない。だからこその愛想なさを感じるかも知れないし、そこに微かな常人というものを感じて安心するかも知れない。君が彼についてこようとこまいと、彼は5分と経たない内に片手に数冊の本を持って帰ってくる。だが、その中に君が言っていたものが無いことは君も直ぐに気づくだろう。文体や内容、挿絵なんかから推測して似たような書き方をされているものをピックしたようだ。しかし、君が持っているその本に作者が書かれていないため、彼が選んだものが正解とも不正解とも言えない。あくまでも似たような本でしかないのだ。 (5/11 00:05:29)
伊藤 優希>
(本を返され、探してきますねと、のそり、という表現が合いそうな動きで探しに行ってくれた彼。名前は知らない…というか教えて貰えなかったけど、根はいい人なのかもしれない。もう少し、交流を深められたら、名前を聞いてみてもいいかもしれない。さて、彼ばかりに探させるのもいけない。僕も探してみよう)「似たような言葉の選び方、挿絵の物は見つかるんだけど…」(手に取っては戻すを繰り返す。どうにもそれらには、あの白い本のような真に迫るようなものが感じられなかった。もしかしたら、作者の渾身の出来があの本なだけで、実際はもう見逃してしまっているのだろうか。それなら、僕が探しているのは作者ではなくて、彼のように真に迫るような本を探していることになる。目的がすり替わってしまっているではないか)「もっと精読して、一致してるか確かめないと…」(そうして探していると、彼が戻ってきていくつかの本を手渡される)「あ、探してきてくれたんですね、ありがとうございます」(それらの本を受け取って、読んでみる。その中でも1冊、気になる本があった。これは、今まで探して近いものを見つけたが、これらがかなり近い。とてもよく似ている。挿絵や、言葉の使い方が酷似していた。なら、と表紙を見るとそこには)「…作者名だけ書いてませんね」(タイトル、愚者の追憶。作者は不明。あぁ、やられた。間違いない。この本は僕の探していた作者が書いたものだ。しかし、彼の匿名性は徹底しているようで、探し物は見つかったが、探している人は見つからなかった、というオチに終わってしまった)「探してきてくれてありがとうございました。結局作者は分からずじまいでしたけど、それでも、きっかけは掴めたと思います。僕一人だととても時間がかかってしまっていたと思うので助かりました」(相手に感謝の旨を伝えて、その本を胸に抱く。折角だし借りていこう。もしかしたらヒントを得られるかもしれないし) (5/11 00:19:11)
ピース・オブ・ケイク>
いくつかの本を持ってきた。幸いなことにこういう物にも〝幻覚〟は作用するようで本を開けば、その上に雨雲と雨が見えていた。閉じている本からもそれぞれに雨音がする。おかげで君が読ませてくれた本と同じような雨の音がする本を選ぶことは出来た。それでも本を開いて確認すれば雨音以外はあまり似ていなかったり、雨音はそっくりだが振り方が違って見える辺り確実にこれだと言い切れるようなものもなかった。だが、君ならば彼にも知覚できないことが知覚できるんじゃないかと思ってそれらしい物を持ってきたのだった。それから彼は頬杖をついて、君が本を確認するのを見ていた。時折、本に目を落とすがそれが長く続くことはなかった。...彼が『愚者の追憶』なんて本をまじまじと見出すまでは。彼は少しだけ、ほんの少しだけ君から目線を外した。きっと君はほんに夢中で気づかないかも知れない。ただ、少しだけ深く息を吐いて。遠くを眺めた。『…作者名だけ書いてませんね』君がそんな独り言を溢す頃にはすっかり元のように気味悪く無表情に君の横顔を見つめた。そして、君が感謝の言葉を言う頃には彼はもう立ち上がって背を向けている事だろう。君の感謝を受け取ることも突き返すことも彼はしない。ただ通り雨のようにさっと降るだけ降って過ぎてしまうのだ。立ち止まることも急ぐこともせずに等速でしか進まない。彼はそういう人間なのだ。 (5/11 00:51:10)
伊藤 優希>
「あれ…?」(いつの間にか居なくなってる)「…今度会ったらちゃんとお礼言わないとなぁ」(思わず苦笑した。仲良く、とまでは行かなくても、会った時に会話する位には話せるようになれたらな)「なんて」(さぁ、本を借りに行こう)「あ、そう言えば」(ふと思う)「あの人はなんであそこに居たんだろう?」(……考えても分からない。まぁきっとたまたま通りがかったとか、そういう些細な理由だろう。そう結論付ければあとはもうそれについて考えることはしない。いつかまた、出会えるだろうから────)〆 (5/11 00:56:37)
伊藤 優希>
実験ノートを閉じる。同僚や仲間達はもう帰った後だ。白衣のポッケから紙タバコを取り出して火をつける。どうせ誰もいないんだ、ちょっとタバコ臭くなるくらいならお小言程度で済む。──この時代にもなって、アナログな方法で記録を録るのも珍しいだろうか。お世辞にも綺麗とは言い難い自筆のノートを眺めてそんな事を思う。一世紀以上前、イーコールとカミサマが発見され世界は変わった…とされている。そう言った記録があって、私はそれを見た。それだけ、知っているだけに過ぎない。実際にそれを見ていないし、経験をしていないから実感が乏しい。「…だからなんだって話なんだが」そう零す。呟きが静謐のオフィスに沈み込む。そんな昔の事に思いを馳せた所で、私の研究が成功する訳でもない。見るべきは今、この時。必要な書類と、ノートをカバンに仕舞って、デスクトップを落とす。あとは、帰るだけだ。「…」立ち上がり、オフィスの出口とは別方向へと歩く。その方向にあるのは研究室。私が今進めている研究の全てが、そこにある。カードキーを通せば、無機質な電子音と解錠音が鳴る。ホワイトボードに張り巡らされた数々の紙、書き散らされた数列と文字。テーブルには、最低限整えられた数々の資料とレポートの山。そして、中に入っているものに対して、明らかに大袈裟な実験装置。緑の溶液に満たされ、胎児の様なものが浮かんでいる。これが、私の実験。人工的な、カミサマの生産。実験体0-11番、そう呼称される個体が入っている。「私は」正しいのだろうか。実験中はそんな事を思ったりしない。公私は分けている。仕事だから、それを求められているなら、私達研究者はその需要に答えるべく、最善の努力をする。だが、コレを目にすると思う。これは、許されるものなのか。作っているのはカミサマだ。今まで人間は羊のクローンを作ったり、馬を組み合わせて強い馬を作ったりと、似たようなことをしてきた。人でないなら、それは道理に反しないのか?カミサマは人じゃない。それは当たり前で、明らかで、事実だ。単純に作るなら、問題ないのだろう。私が問題にしているのは、その後。これからコレには、人間としての自意識を芽生えさせる。コレは、カミサマでありながら人間であろうとするだろう。それを、世間は人間とするのか。それともカミサマとするのか。なら私は、コレを、この子を、どうしたいのだろう。溶液と私を隔てる透明な壁を撫でる。壁は分厚いが、世界に対してあまりにも頼りなく思えた。「…帰ろう」答えなんて出やしない。数字を知らずに数式が解けるか。私が、その解を出すには、自身が圧倒的に不足していた。経験、知識、時間、財。そういうものでは無い。もっと言語化出来ないような、非科学的で非合理なモノ。誰もが持ってて、皆気付かぬうちに捨てたり使ったりしてる。そんな、何かが足りてない。いつ、それを、私は捨ててしまったのだろう。オフィスを出て、空を見上げる。もう真っ暗だ。無数の点が不規則に散らばってる。頭を下げて歩き出す。疲労に浸かりきった頭に、纏まらない思考をぶら下げて。【とある博士の独白】 (5/19 11:22:53)