斬屋覇斬

切断ヒーロー サムライヤンキー

ピース・オブ・ケイク> 
「...あのォ...。恐縮ゥ...なのですがァ...。」それが彼が君へと向けた第一声だった。君へと話しかけた男は君よりも10センチも20センチも小さく、何より陰気で細々とした声をしていた。男の声は今し方にこの辺りを掠めている通り雨のせいでいつもよりも余計に小さく、そしてあやふやな聞こえ方だった。この日の昼はゆるりとした晩春の温暖に包まれていた。それに鈍麻されていた脳は一向に怠惰にも体を動かすことさえも拒んでいた。ただでさえ、複雑かつ難解な専門的な内容など平生であっても牛歩のようにして理解に苦しむと言うのに。だが、それも一時のこと。授業が終わりもうすぐ帰れる、だなんて学生たちが思い始めた頃に雨がやってきたのだから。春から夏への狭間の時期特有の猛烈な雨によって緩慢な脳みそと放漫な午後の陽気は打ち砕かれた。几帳面な学徒は持参した傘やカッパやらで悠々と帰ってしまったし、調子の良い者や顔の広いものはそれぞれに傘を貸してもらったり入れてもらったりしていた。こう言う時には乗り物で学舎へと通う生徒は特に羨ましがられてるようだった。土砂降りだと言うのにも気のすることのないような人間も一定数いた。どれだけ雨が降っていようが、皆どうにかしていつも通りに帰路へとつく。放課後に残って〜..だなんて青春な話もこんな日にはなりを潜めるらしかった。それは、今こうして二人しか残っていない教室が物語っている。男と君は、同じクラスだろうか。それとも別だろうか。いいや、それもあまり関係ないだろう。もう授業も終わった。生徒も影さえ見当たらない。教師は授業を終えて、自ら研究するなり、部活を監督するなりでほとんど教室にやってくることもないだろう。ただ、この二者間の間に確とあるのは、先ほどの陰気で申し訳なさそうな声と未だに話したことも接点があったこともないと言うことだけである。彼は君が言葉を聞き取れたと判断したのか、それはあまり重要でもないと考えたのか君の返事を待たずして「...傘...。あの...持ってますゥ...?いや...その...素人質問で...申し訳ェェ...ないんですが...。」だなんて妙に単語一個一個の間の低く掠れるような吐息を吐き出しながら陰気に眉を寄せて言った。振り返るときっと彼は君に貸そうとでも思っているのか、傘が握られている。黒くて、無骨で。少々普通のものよりも長いだけのただの傘が。   (5/13 23:08:02)


サムライヤンキー> 
(季節の変わり目の、時節柄ジメッたい空気に辟易した。このまとわりつくような、粘土を持つ温い空気を肺に入れるのすら億劫に感じた。)「ッッちィ」「ボケカスがァ…………」(殆どの奴らが帰った教室の窓から窺える、水が入ったバケツをひっくり返したような土砂降り様に悪態を付く。)(馬鹿声張り上げて、斬り裂かんとする勢いで、胸糞悪いあの雲に怒鳴り散らかしたい。そんな我が身いっぱいにして癇癪玉の如き憤怒と願望を何とか綱渡りする気分ギリギリで堪えていた。)(嫌い、嫌いだ。全てが気に食わないし、ムカつくし、なによりなんでもいいから早くぶった斬りたい。)(そんな物騒な危険思想が、この男、ハザンの脳回路、あるいは毛細血管を線香花火みたいにバチバチと灼き切ったところで──────)『...あのォ...。恐縮ゥ...なのですがァ...。』(その時、暗渠よろしくかび臭い声が耳に──────)
『...傘...。あの...持ってますゥ...?いや...その...素人質問で...申し訳ェェ...ないんです「ㅤ声ㅤがㅤ小ㅤせㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤえ"ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤ〜ㅤッㅤッㅤッㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ!ㅤ」(遮った!!)(何の脈絡もなしに話の脈を泣き別れにした。)(あな、不幸。)(この男に話しかけたのが運の尽きッ斬り。)(安心したまえ、こいつは君が思っている以上の理不尽贅沢満漢全席だ。)「………………………ンだァァァ、このヒョロガキィィィィ〜〜〜〜???」「テメェの声が、これッッッッッッッッッッッッ…………………………~〜〜〜〜」(無駄に溜める)「ッッッぽッッちも聞こえねぇぇぇえええッッッッッッ!!!!」
「…………………………………訳じゃねェッッ、…………けどォォ……………ッッッ」(………………………ひとしきり、理不尽に怒り散らかしたと思えば、鎮静剤でも静注したみたいに不気味なくらい静まり返って、だから未だに怒りの残り火が燻る眼差しが、ギロリと睨みつけるようにあなたを視界に入れるために移動する。)(そう、この男、キリヤ ハザン。腐っても〝ココ〟、ヒーローを育てるべくの高度教育(コイツの場合はもはや躾)を受けている訳だ。何も無ければそうそう君の足と体を泣き別れにせんべく、牙を向いたろうが、彼の身に刻まれた教育……………躾が効いていた故の変わり身だったのである。)「……………………クソが、クソ、クソッッ」「ンでェ、ンの用ォだよヒョロ助ェ。傘がナンチャラウンチャラって話しかァ?もう一度言え」   (5/13 23:43:55)